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蜜月の欠片




 借りたタオルを首に引っかけ、日向は音を立てずゆっくり陽介の部屋の扉を開けた。
 真昼の土曜日。まだ陽は高いのにカーテンは締め切られた室内は薄暗い。さっきまでここでしていた行為を考えれば、開けようとも思わないけど。
 ベッドには部屋の主が日向に背を向けていた。近づいてみると規則正しく肩が上下している。風呂を借りる、と一声かけた時一応返事を返してくれたが、完全に目が覚めてないらしい。情事を終えた恰好のまま、幸せそうに口元を緩ませ眠っている。
 背中に自分で引っかいた傷痕を見つけ、日向は少々恥ずかしくなりながら「陽介」と寝ている肩を揺さぶった。このまま一人起きていると、所在無い気持ちになってしまいそうだ。
「……ん」
 日向の方へ寝返りを打ち、陽介の睫毛がぶるりと震えて上がる。ぼんやりした視線で見下ろす姿を認め、何故か唇を不服そうに歪めた。
「服着ちゃったの?」
「人様の家を裸で歩く趣味は持ち合わせていない」
 起きてすぐの言葉がそれか、と日向は呆れながらベッド横に投げられたままのシャツを屈んで取り、陽介の顔に押しつける。
「いい加減陽介も服着ろ」
 有無を言わさない口調に、渋々陽介が従う。のっそり身体を起こしてシャツを着ながら「下取ってくんない?」と日向に頼んだ。
 脱いだものは殆どがベッドの脇に散乱している。日向はズボンと下着を拾って陽介に渡し、ベッドの縁に腰を下ろした。
 ぼんやりと、薄暗い室内を見渡す。いつもこんなことをする為にこの部屋を訪れたりしていない。テスト前には一緒にここで勉強するし、クマがいれば騒がしくも楽しく遊んだりする。
 そうやって普通に過ごす傍ら、今日みたいに抱き合ったりすると、同じ部屋でもどうも落ち着かない感じがした。腰の辺りの鈍痛がさらにそれを際立たせ、何となく日向は俯きがちになる。
 シーツの擦れる音がして、後ろから伸びてきた腕が日向の腹部に回った。自分の方へ引き寄せるように陽介が抱きしめる。後ろに身体が傾きかけ、日向はベッドに右手をついた。
「本当は、もっと一人占めしたいんだけど。あれだけやっても、全然足りないし」
 ため息混じりに陽介が呟いた。首筋にかかる息が擽ったい。
「でも、菜々子ちゃん泣かせたくないしな」
「当たり前だ」
 日向は、腹部から下を探ろうと動く悪戯な手をしつけるように叩いて断じた。
「菜々子を泣かせるぐらいなら、陽介を張っ倒しても俺は帰る」
「お前が言うと冗談に聞こえないのが橿宮クオリティだな。……このシスコンめ」
 ぼやきながらも陽介の声は笑っていて「じゃあさ」とさらに腕へ力を込めた。
「今日はもうしないから、もう少しこのままでいさせてくれよ。これぐらいだったらいいだろ?」
「しょうがないな」
 ぽつりと日向は呟いて妥協する。菜々子は泣かせたくないけれど、やっぱり陽介とも一緒にいたいと思うのも事実だった。だからもっと温もりを確かめたいし、一つになりたいとも思う。精神的にも肉体的にも。
 叩いた陽介の手を今度は上から優しく重ね、日向は肩越しに恋人を振り向いた。
「今は駄目でも、一緒の大学とか行ければ一緒にいれるだろ」
 はっと陽介の目が見開かれ、間近の日向を穴が開きそうなほどに見つめる。
「だからそれまではちょっと我慢な」
 そう言って日向は、陽介の鼻の頭にキスをして目を細めた。
 陽介の薄く開いた唇が、感極まったように震える。そして「それ反則だっつーの」と早口で言いながら、日向の身体をベッドに押し倒してその上に覆いかぶさった。

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