商品券 ペルソナ34Q小話 2013年04月29日 「あー、つっかれたー……」 ジュネスでのバイトを終えた後、更衣室でエプロンを脱いだ陽介は人目を憚らずに大きく背伸びをした。学校が終わってからの仕事はけっこう辛い。「俺さ、絶対他のアルバイトよりこき使われている自信があるね。親父も自分の息子だからってシフト容赦ねー時もあるし」「俺からすれば、陽介のお父さんは陽介を信頼しているように見えるけどな」 小さく笑いながら、着替えを済ませた日向がロッカーの扉を閉める。「この前、ばったり会ったんだけど。丁寧にこれからも陽介をよろしくってお願いされたし」「げっ。あの親父、何恥ずかしいことしてんだか」「そうかな。良いお父さんじゃないか」 率直な物言いに陽介は、あー聞かなきゃ良かった、とぼやきながらロッカーの中を探った。そこから白い封筒を取り出し「でもこれで親父がそんなことした訳が分かったけどさ」と言いながら準備が終わるのを待っていた日向に差し出した。「これ、親父から」「……?」 受け取り、日向は封筒を見てみる。 中にはジュネスの商品券が入っていた。かなりの金額分が入っていて、日向ははっと驚いた顔を上げて陽介を見た。「それあげてくれって。多分、俺のことも含めたお礼なんだろうな。バイトとかも無理言ってもらってるし」「だからってこれは貰えない」 無謀なシフトのバイトも確かに頼まれているが、その分きちんと給料は貰っている。それどころか少し上乗せられている時もあった。十分に貰っているのに、この商品券。「気持ちだけで十分だ」 日向は首を振り、封筒の蓋を閉めて陽介に返した。第一、お金とかの利益で陽介と付き合ってるんじゃない。 しかし陽介は「いいから貰ってよ」とやんわり押し止めた。「ほら、ゴールデンウイークで菜々子ちゃんがジュネス楽しんでくれちゃったじゃない? その話をしたらさー、親父もうすっげぇ喜んじゃって」 陽介は日向の手に握られたままの封筒を指差した。「親父も親父なりに感謝してるんだと思う」 ジュネスの店長として味わう苦労は、陽介のそれよりも大きいだろう。商店街には目の敵にされ、息子にまでその悪意が波及する。だからこそ、立場関係など気にせず接する日向や、純粋にジュネスが好きだと言ってくれる菜々子の好意が嬉しかったんだろう。「それで菜々子ちゃんにジュネスで遊んでやってよ。お前の買い物に役立てるのも良しだし。あ、ちゃんと親父の自腹だから、その商品券! だから安心して使えよ」「……」 な、と黙る日向の手を包み、封筒をしっかり握らせる。 根負けしたらしい。日向はため息をついて「じゃあ」と封筒を片手に抱えていた鞄にしまった。「ありがとう、って伝えておいて」「わかった。きっと親父も喜ぶだろうしな」 そう言いながらも受け取ってもらえた嬉しさに、陽介の顔も緩んでいる。それを見て「ありがとう」ともう一度日向は陽介に礼を言って笑った。 [0回]PR