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怖いから




 運の悪いことに、シャドウが日向の弱点をつく攻撃をしてきた。
 日向は何故かペルソナを複数持っていて、それらを自在に付け替えることが可能だ。だが流石に付け替えてた直後だったので、また直ぐに、ってのは無理だったようだった。身構える暇もなく、日向に電撃が襲いかかる。
「――先輩!」
 完二が叫ぶ。
 吹き飛ばされた日向は、苦痛に耐えるように歯を食いしばっている。電撃で痺れたのか、力の入らない手から剣が滑り落ちた。
「ダメ……! また来る!」
 今度は焦ったりせの声が「逃げて先輩!」と日向の危険を告げる。
 弱点をついたシャドウは、追い討ちをかけるようにさらなる攻撃を、無防備な日向に仕掛けかけていた。倒れた状態で体勢を整えられず、日向はシャドウを睨み付ける。
 ――このままじゃ、やべぇ!
 そう思った瞬間、考えるよりも早く身体が動き、陽介は日向とシャドウの間に割って入った。
「陽介!」
 後ろから、険しく日向が陽介を呼ぶ。ああこりゃ怒ってるな。声を聞いただけでも分かったが、陽介はそれぐらいで退いたりはしなかった。ここで庇わなかったら、日向が危険だ。
 頭上から、閃光と共に激しい衝撃が降り注ぐ。攻撃が当った瞬間、ぎゅっと目をつむった陽介はそのまま意識を失った。



 目を覚ますと、仰向けになっている陽介を仲間が心配そうに見ていた。シャドウは無事に倒せたらしい。
「アンタ……無茶するっすね」
 まず呆れた顔で完二に言われ、その後すぐ「全然起きないんだから心配したんだよ?」とペルソナを呼び出している雪子に窘められる。
「わ、わりい……」
 陽介は肩を縮めて謝った。静かな怒りに怯える様子に「でも気持ちは分かるけどね」と雪子は小さく笑った。
 虚空から出てきたコノハナサクヤが、力を発揮し陽介の傷を癒していく。痛みが消えた安堵にほっと息を吐き「サンキュー」と感謝の気持ちを言いながら陽介は、床に手を突き起き上がろうとする。
 だが上から頭を押さえ付けられ、陽介は再び寝かされてしまった。
「お前は馬鹿だ」
 頭上から刺々しい声で降ってくる。
 ずっと黙っていた日向が陽介を睨んだ。
「お前だって、電撃は苦手なのに。どうしてわざわざ庇う」
「……お前が、危なかったからだろ」
 あの時倒れた日向に、陽介は考えるよりも早く、身体が動いた。自分もまた電撃に弱いことを忘れて、ただ目の前の仲間の危機を打破したい気持ちが勝っていた。
 それに、また何かを失うだなんて、陽介には耐えられそうもない。そしてその衝撃は、日向が特別な存在になっていくにつれ、どんどん強くなるんだろう。
 だったら、自分が盾になって、日向を守りたい。
「…………」
 負けずに見返す陽介から視線を外し、日向は諦めたように溜め息をついた。険悪な空気に「先輩……?」と完二が戸惑いながら日向と陽介を交互に見る。
「今日はもう……、帰ろっか?」
 場の空気を和らげるように、雪子が提案した。
「ずっとシャドウと戦ってるし、みんな疲れてると思う。このまま進んだら危ないよ」
「そう、だな」
 深呼吸をして、日向は頷いた。雪子の言う通りだ。誰もが疲労を溜めているし、先の戦いでの出来事で、冷静に物事が考えられない。
「――帰ろうか」
 自らに言い聞かせるように日向は呟く。そして身体を起こした陽介に向けて腕を伸ばした。
 その手を掴み、陽介は立ち上がる。
 繋がった手から、ほんの少し震えが伝わった。



「ごめん」
 ジュネスで仲間と解散した後、日向と二人で帰り道を歩いていた陽介は、隣の相棒に向けて謝った。
「俺が悪かったよ」
 ちらりと日向が横目で陽介を見る。悪いと思ってるならどうしてやったと憤慨しているようだった。
 倒れた状態で目の前で庇われ、倒れていく姿を見て日向は怖かったんだろう。助け起こされた手から震えが伝わって、陽介はその時の日向の心情を僅かに悟った。自分の代わりに、なんて後味が悪すぎる。
 陽介の謝罪に日向は黙したままだ。まだ怒っているんだろう。
「でも、お前を庇ったことは後悔していねーからな」
 例え怒られても、現実に今ひどく居心地が悪かったとしても、日向がシャドウにやられてしまったらと考えれば、まだ耐えられる。
「それに、また危なくなったら庇うから」
 そう宣言すると姑くの沈黙の後、さっき言われたよりも重い響きで「お前は馬鹿だ」と日向は言った。
 いいよ、馬鹿でも。だって俺は、何があってもお前を守りたいんだから。
 俺がどうこうなるよりも、お前が倒れる方が怖いから。
 心の中で思いながら、陽介はポケットに手を突っ込む。そしてそこにあった飴玉を「これやるから機嫌直せよ」と膨れたままの日向に渡した。

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