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恋人補給




 祝日が重なり、ちょっと長い連休みたいになった今月。赤い日付が続くカレンダーに、陽介が抱くのは淡い期待。もしかしたら、都会へ戻ってしまった日向が稲羽に遊びに来るんじゃないか。休みが続くと、必ず同じことを思ってしまう。
 勿論あっちにも都合があるのだから、それは外れることも多いけど、今回は当たってくれたようだ。
 自室のベッドに寝転んだ陽介は、しまらない顔でにやにやと携帯を見つめる。さっき日向から届いたばかりのメールには、今度の連休に帰る、と言うことと、連休のどこかで陽介のうちに泊まりたいと言う内容が書かれていた。
 勿論陽介は日向の要望に応える形の返事を出す。久しぶりに帰ってくれるだけでもすごい嬉しいのに、家に泊まりたいとか、願ってもない幸せが転がり込んだものだ。
 フリップを閉じた携帯をベッドヘッドに置き、起き上がった陽介は、壁に掛けてあるカレンダーを見つめる。さっきよりもいっそう笑みを緩ませ、机に戻ると取ってきた赤マジックで、日向が戻ってくる日に大きく丸をつけた。
 もう、すごい待ち遠しくなってっし。遠足前日を興奮して待つ子供みたいに、陽介は胸を弾ませる。


「だからって、こんなに大きく丸をつける必要はないと思うけど」
 当日の日付に書き込まれた赤い丸を見て、日向は苦笑した。後ろを振り向き、ローテーブルで肘を突きながら、見上げる視線に肩を竦める。数ヶ月ぶりに会った陽介は、ずっと蕩けるような目を日向に向けていた。他の仲間がいた時は自制したんだろうが、二人きりになった途端、この調子。
「それほど楽しみだったの」と、嬉しそうにいうものだから日向からすれば苦笑するしかない。みんなと――陽介と会えるのが楽しみだったのは日向も同じだから、笑うことはしないけど。
「会おう、と思って会える距離じゃねえし。だから見れる時に見貯めしとかねーと勿体ない」
「こっちは流石に少し恥ずかしいが」
 このままだと、本当に穴が開きそうな気がする。日向は微妙に陽介の顔から目を反らし、ローテーブルの向かい側に座る。
「悪いけど俺と居るときは諦めて。それ以外はほんっと我慢してるんで」
「……皆と居るときもずっと隣を陣取ってた奴の言う台詞か?」
 それで我慢しているなんて。じゃあそうしてなかったら、陽介はどんな行動を取ってるんだろう。
 完二や直斗が時折何か言い足そうな顔をしていたのは、そのせいか。楽しんでいたんだろうが、内心何か言いたかったのかもしれない。
 呆れる日向に「あれでもじゅーぶん我慢してたの!」と陽介は臆面もなく言った。ローテーブルから身を乗り出し、日向の両手を包み込むように握りしめる。
「連休前に橿宮からメール来て、すごく嬉しかったんだぜ、俺。休みっても五日だろ。全然短いよ」
 それに、と陽介はカレンダーに目を移す。
「もしかしたら、二人きり、とかもうないかもしんないし。今のうちに充電しとかないと、ぜってー橿宮不足になる」
 言い切られてしまい、日向は一瞬唖然となった。時たまこの男は自覚もなく、恥ずかしいことを言ってくれるので始末に悪い。
 頬に朱をさし、日向は「面と向かって言うな」と口を尖らせた。大体二人きりと言っても、下には相変わらず花村家の世話になっているクマと日向と一緒に泊まりに来た菜々子がいるのに。下から聞こえる楽しそうな声は、いつ二階に上がってくるか知れない。
「とりあえず、手。クマはともかく、菜々子が来てこれを見られたら、ちょっと説明に困るんだが……」
 純粋な従姉妹を前に、うまくごまかせる気がしない。陽介の手に包まれたままの両手を軽く引くが、陽介は決して離してくれない。それどころか、うーん、とローテーブルを挟んだ今の体勢がしっくりこないらしい。片手を離したかと思うと、素早く膝を立てた状態で日向に近づき、隣へ落ち着いた。手は離れたが、それ以上に、べったりくっつきあう感じになってしまった。
 腰に手を回し、身体を密着させる。へへ、と陽介は日向を見て、嬉しそうに笑った。
「さっきみたいに向かい合って座るのも、お前にじっと見つめられるから好きだけど、やっぱりいちゃいちゃすんならこうだよな!」
「……なんか陽介、俺があっちに帰ってから妙に甘えたがりになったよな」
「まあな」
「認めるのか、そこで」
 多少は照れるか、と思っていた日向は淀みない即答に面食らう。しかし日向もさした抵抗はせず、力を抜いて陽介にもたれ掛かった。離れていた分、寂しかったのは同じだから。
「菜々子が来たら、お前ちゃんとうまく言い訳しろよ」
「そこらへんは抜かり無し。今アニメの映画見てるけど、あれのシリーズがまだまだあっから。寝る時間までクマと一緒にテレビに釘付け間違いないから」
「……ちゃっかりしてるな」
「そりゃどーも」
 褒めていない。日向は思ったが、口には出さなかった。言っても、砂が吐けそうな台詞で返されそうだ。
 腰に手を回された意趣返しに、日向は体重を預けるように身体を陽介へ凭れさせる。どうせ支えてくれるからいいだろう。
「俺達もなんか見る?」
 陽介が部屋に置いてあるテレビを見た。しかし日向は「いいよ」と首を振った。
「音に紛れて、菜々子たちが来てもわからなくなりそうだし」
 この状態では、ほとほと言い訳に困る。
 それに。
「テレビに集中したら、いちゃつけなくなるだろう」
「それもそうだ」
 あっさり肯定し、陽介はあいていた手を日向の頬に添える。そっと顔を寄せ「じゃあ、しばらく俺に橿宮補給させて」と近づける。
 唇が触れる寸前、日向は自然と瞼を閉じる。なら俺も陽介補給させてもらおう。日向は自分からも身を乗り出し、腕を陽介の首に回した。

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