忍者ブログ
二次創作(小説のみ)やオフラインの情報を置いてます。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

料理成功率


 炊飯器の蒸気孔から湯気が立ち上る。卵に人参に玉ねぎ、ピーマンをシンクに置いて、エプロン姿の陽介は、料理の本を片手に唸っていた。
 今日、陽介は休みだが日向は講義が終わってからも用事があって帰りが遅くなるらしい。夕飯は家で食べるから、コンビニで俺の分も買っといてくれ、とメールが来ている。
 だが陽介は敢えて自分で作る選択肢を選んだ。いつもは可能な限り日向が食事を作ってくれる。対して陽介は見ているだけ――よくてごはんを炊く程度だ。掃除とか代わりの仕事を引き受けているものの、日向の方が家事の比重が傾いているのは否めない。
 作るだけで大変そうな、栄養バランス完璧の料理を見ると、陽介はたまに思う。たまには俺が作ったほうがいいのかな。栄養バランスとか無理だけど、自分も作れたら日向も少しは楽になれるんじゃないか。
 今日は日向も遅いし、やってみよう。決心して、陽介はさっそく台所に立った。料理の本もある。何とかなるだろう。かつてクリスマスケーキの惨事を回避してくれた直斗も「本を見れば何とかなるものです」と言っていた。
 だけど、決心して料理が上手くいくわけもない。包丁だって、普段ろくに握らなかったのだ。以前シャドウ相手に握っていたのとはまた違う。
 陽介は普段横で見ている日向の手つきを思い出しながら、包丁を野菜に当てていく。ぎこちない手つきで切りながら、改めて日向の偉大さを思い知った。
 やっぱりアイツはすげえ。

 玄関の扉が開く音がする。疲れを身体から吐き出すように溜め息をしながら「ただいま」と日向が部屋に入った。鞄をソファに投げつつ、鼻をひくつかせて首を傾げる。台所から焦げ臭い匂いがした。
「焦げ臭いけど何か……陽介?」
 換気扇をつけ、炊飯器で炊かれたごはんを確認し、台所から戻った日向は、神妙にテーブルの側で正座している
陽介を見た。脱ぎ捨てたエプロンの側で陽介は、肩を強張らせている。そして怪訝な顔をする日向を見上げ「すいませんした」と頭を下げた。
 日向が目を丸くして、陽介の前に腰を下ろす。
「俺も飯作れるようになったらいいかな、って思ってもやってみたんだけど。……失敗しました」
「それで焦げ臭かったんだ」
 日向は頷き「何作った?」と献立を聞いた。
「オムレツ」
「出来たのは?」
「……捨てた」
 何とか苦労して作り上げたオムレツは、それと呼べるか疑問に思える代物で。あまり見たくもなかった陽介は、生ゴミに捨ててしまっている。
「何で捨てるんだよこの馬鹿」
 刺々しい声で日向が言った。怒られ、陽介は肩を竦めて瞼を閉じる。
「失敗かどうかは、食べて味を見なきゃわからないだろ。それに味が悪かったとしても、そこから見直すべき欠点を見つけて次に活かすって手もあるし。安直なものの考え方良くない」
「う……」
「……もう一回」
「へ?」
「もう一回作れ」
 日向がびしりと台所を指差した。突然の展開に、陽介が瞬きをして日向を凝視する。
「せっかく疲れて帰ったのに、夕食がご飯だけなのはあんまりだし。それにまた同じことをするなら、今のうちに成功率を上げておくべきだろう?」
 俺が横で教えるから、と言い、日向はさっさと立ち上がって台所へ消えた。
「お、おい? 日向?」
 展開についていけず、陽介は腰を浮かしながらどうしようか迷った。だが日向は有無を言わせず「早く来る!」と呼ぶ。
 うー、あー、と呻きながら陽介は渋々立ち上がる。日向の中にある何かのスイッチが入ったようで、こちらに拒否権はなさそうだ。
 日向厳しいだろうなあ、と陽介は思う。だが彼が意味はどうあれ、自分の作ったものを食べたいと言ってくれたことは嬉しい。
 少しはさっきよりもおいしく出来るように頑張ろう。陽介はエプロンを締め直すと、日向が待つ台所に向かった。

拍手[0回]

PR