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膝枕



 朝から雨が降っている日。フードコートにやって来た陽介は、疲れた顔をしていた。ジュース片手に仲間を待っていた日向はふらついた彼の足取りに不安を覚える。
「夏休みだからって親の遠慮がなくなってきてさ」
 日向の隣へ腰を下ろすなり陽介は大きく欠伸をした。開いた口を掌で押さえる目元に、涙が滲んでいる。
「最近朝から仕事に駆り出されてんだよ。ほら、今日もチラシが入ってただろ?」
「うん。朝刊に挟まってたな」
 堂島家に身を寄せてから、菜々子の代わりに家事をしている日向は毎日チラシをチェックしている。今日はこれからテレビの中に行くが、帰りに食料品売り場で買い物をするつもりでいた。菜々子が食べたいと言っていた菓子に、堂島が好んで食べているたくあん。買うものはぬかりなくリストにあげている。
「だからさ、セール品出すのに、人手は多いほうがいいって朝の五時に……」
 再びこみあがる欠伸が、陽介の語尾を濁らせた。精彩を欠いた目が眠気で揺らぎ、半分落ちかかっている。もしここが自分の家だったら、すぐにでも眠ってしまいそうな顔だ。
「大丈夫か?」
 心配になって日向は陽介の顔を覗き込んだ。陽介は無理矢理口をにっと上げ「平気平気」と言うが、不安は拭えない。こテレビではシャドウとの戦闘がつきものなのに、眠気が強ければ集中力が散漫になってしまう。
「……んー。ちょっと肩貸して」
 言うなり陽介が頭を日向の肩に凭れた。明るく茶色い髪が、首をくすぐる。
 僅かに肩を震わせ横を向けば、とっくに頭を落ち着けた陽介が「少し眠らせて」とぼやけた声で言った。俯きがちで顔は見えないが、それきり何も言わなくなったので眠ってしまったんだろう。
 よくこんなところで眠れる。いや、それだけ眠気が強かったんだな。
 小さく溜め息を漏らし、日向は両手でそっと陽介の肩を掴んだ。軽く身体を起こして、椅子へ上体が横になるよう寝かせる。
 膝の上に頭を乗せた。すっかり眠ってしまった陽介の額に掛かった前髪を払いわけ、口元を緩める。
 雨のお陰でフードコートに客の姿はない。仲間たちが来るまでは寝顔を堪能させてもらおう。
 日向の膝を枕に、陽介は気持ちよさそうな顔で眠っている。それを見ながら日向は彼を起こさないよう、静かに雨音に耳を傾けた。

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