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花主小話三本立て




1

 水着に着替えた相棒は、荷物から何かを取り出し「花村」と俺を呼んだ。
「悪いが手伝ってくれ」
「……日焼け止め? 背中に塗りゃいいのか?」
「うん。頼む」
 くるりと背を向けた相棒の肌は白い。これが日焼けして赤くなったら、想像すると痛々しい。
「りょーかい」と俺は早速蓋を開けて、手の平で日焼け止めクリームを伸ばし、相棒の背中に当てる。そうしたら一瞬 相棒の肩がびくって跳ねて、ちょっとかわいい。
「まんべんなく塗ればいい感じ?」
「うん。首も頼んだ」
「どうせなら前も塗って差し上げましょうか、お客様?」
「それはいい」
 面白半分でした提案は、すげなく却下されちまった。ま、いいけどね。
 日焼け止めクリーム越しに触れる相棒の肌は、手入れしてんのって聞きたいぐらいにキレイだ。これ女子たちが見たら、騒ぎそうだ。りせとかは特に。
 背中はあらかた塗り終えた。後は首だけだと、新たに手の平へ日焼け止めを出す。
 さて塗るか。首に視線を移して――俺はそこから目が離せなくなった。
 肌はやっぱり白い。でもオトコノコなんだから、細くはないし硬そうだけど――どうしてか俺の目にはおいしそうに見えてしまった。日焼けもしてないそこに歯を立てて赤い痕つけちゃったら――コイツどんな顔するのかな。
 噛まれた小さな痛みに首を押さえ、困惑する相棒を思い浮かべる。やべぇ、興奮してきた――。
「……花村」
「はいぃっ!?」
 相棒の冷ややかな声に冷水をかけられた気持ちになった俺は、直立不動になった。まさか考えてることバレた!?
 戦々恐々とする俺を肩越しに見て「鼻息が荒い」と相棒は一言。
「そういうのは里中たちの前では止めとけ。下手すれば蹴られる」
「……ははっ……そうっすね……」
「せっかくの海だ。楽しくいこう」
 もっともなことを言って相棒は身体ごとこっちを向いて「首ぐらいはする。ありがとう」と俺の手から日焼け止めをさっと取った。自分でさっさと塗っちゃう相棒を見て、俺は僅かに安堵した。マジで首に痕つけたりしたら、相棒だってドン引きだ。俺達は友達だってのに――。
 準備を終えた相棒が「行こう花村」と俺を呼んだ。
「みんなが待ってる」
「……そうだな。行くか」
 俺は気分を入れ替えて笑い、相棒と更衣室を出る。また後で日焼け止め塗るチャンス来ないかなと心の片隅で思いながらも、砂辺で待ってるだろう仲間たちの元へ向かった。


2


 里中がキツネから貰った服に着替えた。よくあるカンフー映画に出てきそうな格好になって、見るからに上機嫌だ。
「これなら、どんなのが来ても、どーんって吹っ飛ばせる気がする!!」
 嬉々として構えを取る里中に、俺はアイツの前へ不用意に立つことはしまい、と心に誓った。シャドウと間違えられて吹っ飛ばされたらシャレにならん。
「……にしてもツネ吉はどっからあんなの持って来たんだろうな」
 なあ、相棒。俺は尋ねかけ、アイツの真剣な眼差しに口をつぐんだ。
「……里中の服、いいな」
「……そういやお前も格闘モノ好きだったよな」
 相棒はクールで大人びた雰囲気を身に纏っているし、周囲もその認識が強い。だが実際、相棒は割と熱い心の持ち主だ。弱いものが困っていたら放っておけないし、時に里中から蹴り技を伝授されては、二人してシャドウを次々とぼこぼこにしていく。
 相棒は毛繕いしているキツネの傍に片膝をついてしゃがんだ。両手を伸ばし、野良狐にしては綺麗な毛並みをさらに整えていく。アイツの手つきは気持ち良いらしく、キツネはうっとり目を細めなすがままだ。
しばらくキツネを撫でつづけていた相棒がふと口を開いた。
「なあ、俺にも里中みたいな服――」
 相棒の言葉は最後まで続かなかった。何を言われるのか察したキツネが、さっさとアイツから離れてしまったからだ。
「……あ」
 呆然としちゃうアイツを一瞥し「コン!」と鳴いたキツネは振り返りもせずに、未だはしゃぐ里中たちのところに向かった。
「うっわー……」
 さっきまでの従順さが嘘みたいな手の平の返しようだな、オイ。変わり身の速さに、俺はキツネのしたたかさを改めて認識した。
 キツネに逃げられた相棒は、しゃがんだ体勢のまま動かない。哀愁漂う姿に、俺はつい泣いてしまいそうだ。相棒の後ろに立ち、俺は沈んだ肩にそっと手を置いた。
「気にするなよ。アイツ気まぐれだし、また何かくれるって」
「……花村」
 俺を振り返り、相棒は真顔で言った。
「沢山賽銭すれば服くれるかな?」
「やめなさい」
 俺も真顔で止めた。どんだけ欲しいんだよ!?


3


 クマも厄介になってるし、これぐらいはしなきゃだよな。俺は惣菜が入ったビニル袋を持って鮫川河川敷を歩いていた。
 向かう先は相棒の家だ。元旦が過ぎて早々、菜々子ちゃんと堂島さんはまた入院している。二人とも経過は良好だが、念のためらしい。だから堂島さんの家には相棒と、センセイが寂しくならないように、と勝手な理論を発動させて居候を決めたクマとの二人暮らしだ。
 最初は強引に相棒のところに転がり込んだクマにイラっとした。けどその日の夜に相棒が倒れたとクマから連絡を受けて、アイツがいてよかったと考えをあっさり翻した。もし一人きりで倒れたまましばらく見つからなかったと思うとぞっとする。
 そんなわけでクマは居候を続行し、俺はと言えばバイトが終わった後で惣菜を持って、夕飯をご相伴になっている日々を送っている。
「うー、さむっ」
 雪はやんでるけど、外の空気はすごく冷たい。防寒をしっかりしてないとすぐに風邪をひきそうだ。アイツの家に着いたら、コーヒー淹れてもらおうかな。ポケットに指先がかじかんだ手を入れて足早に歩く俺は、その先で信じられない光景を見た。
「――何やってんだアイツは!」
 病み上がりであるはずの相棒が、川辺にいた。釣り竿を川面に向かって投げている。
 この寒い日に釣りなんてしてる場合かよ! 走り出した俺は、階段を駆け下り、相棒の元へ向かった。
「おいっ!」と怒りも隠さず俺は相棒の肩を掴んだ。水面の浮きを見つめていた相棒はいきなり肩を引っ張られ、驚いた顔を見せている。
「……なんだ陽介か」
「なんだじゃありません。すぐにやめて帰るぞ」
「ヌシ様が待ってる」
「俺は待てませんから。また風邪ひく気か?」
「一度引いて免疫あるから平気」
「ぶり返すって言葉があるだろ。いいから帰る!」
「せめてこの分だけでも」
「駄目です。これ以上駄々こねたら、堂島さんと菜々子ちゃんに言うぞ」
 ちょっと卑怯だけど出した二人の名前に、渋々相棒は浮きを引き上げ、釣り道具を片付け始めた。
 俺はほっと胸を撫で下ろす。ったく、油断も隙もありゃしない。
「暖かくなったら、たくさんすればいいだろ。ほらコーヒー淹れてやるから拗ねるなって」
「……ミルクたっぷりで頼む」
「へいへいっと」
 少し拗ね気味の相棒の背を押して俺たちは歩き出す。どうせだから砂糖も淹れてすごく甘いコーヒーにしてやろう、と思いながら。

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