/親子のような 陽介+クマ+完二+千枝 ペルソナ34Q小話 2013年05月03日 「あれ? クマくんどしたの?」 秘密結社研究ラボの入り口、クマが隅っこに蹲っていた。頭を抱えながら、ぷるぷると震えている。 だいだら.に持っていく素材を手に入れようと、日向たちとラボへ入っていった時までは、普段通りのクマだったのに。急変した様子に、千枝は眉を潜めた。 恐らく、ラボの中でその何かがあったんだろう。だがその時、千枝は同行していなかったので知る由もない。 とりあえず近付いて「おーいクマきちー」と声を掛けたが、クマは千枝には気付かず、悲しい表情で震えるまま。今にも泣きそうに「センセイに嫌われちゃったクマ……」と呟いている。 え?と言葉の内容に驚く千枝の腕を、完二が引いた。そのままクマから離れ、他の仲間たちがいるところまで連れていかれる。「ちょっ、完二くん?」「里中先輩。今はアイツそっとしておいてやったほうがいいっすよ。何言っても聞こえねえから」「へ……? な、何で?」 千枝は、完二と蹲っているクマを交互に見ながら困惑した。「いや……」と頬を掻きながら、言葉を濁す完二に代わって、陽介が溜め息混じりに説明する。「ほら、さっき俺と完二とクマで中に入ってっただろ。そん時にちょっと、な」 シャドウとの戦闘は、日向が仲間に指示を出している。その指示は的確で効率的にも良いのだが、ある戦闘でクマは日向の指示を無視して動いてしまった。「あん時、クマの攻撃でシャドウがみんなダウンしたから、アイツそのまま全滅させる気だったと思うんすよ」 腕を組み、難しい顔で完二が空を仰いだ。毒々しい赤色の空に口を歪めて、でもと言葉を続ける。「そん時、先輩クマに回復頼んでたんす」「みんな結構ヤバかったからな。橿宮は体勢を整えるつもりだったんだろ」「……でもクマくんは攻撃を優先させちゃった、ってこと?」 クマの丸まった背中を見ながら言った陽介に、千枝はそう聞いた。 陽介は千枝をちらりと見て、頷く。 その後、クマの攻撃で倒しきれなかったシャドウが反撃し、危ないところまで追い詰められらしい。事情を知って、そりゃ橿宮くんも怒りそうだわ、と千枝は嘆息した。 テレビの中でシャドウに倒されることは、死を意味する。こっちは絶対にやられてしまうわけにはいかない。 道理で戻ってきた日向の表情がいつになく厳しかったんだと、千枝は納得してしまった。「……オレ、先輩が本気で怒るの初めて見たっすけど……、すっげえ怖かった……」 その時を思い出したのか、完二は寒気がして鳥肌が立った腕を擦る。「怒鳴ったりはしねーんすよ。ただどうしてそんなことをしたのか、静かに聞いてて。クマが下手な言い訳繕ったら、辛そうな顔するし。それにあまりに真剣だから、見ているこっちも何か悪いことした気分に……」 それきり完二は口を噤んでしまった。 恐いもの知らずな完二でさえ、この反応。日向の静かな怒りを正面から受けたクマからすれば、かなりショックだったんだろう。「あ、あたしその場にいなくて良かったかも」 もし居合わせていたら、それはもう居心地が悪かったに違いない、と千枝は思った。クマと完二を見ていれば、それがよく分かる。 落ち込み続けるクマに「……仕方ねえなあ」と陽介が近付く。隣りにしゃがみ、震え続ける背中を優しく叩いた。「ヨースケ……。クマ、どうすればいいんだろう……? センセイがずっと口聞いてくれなくなったら、クマは……クマは……」「大丈夫だって!」 陽介はわざと明るく言って、元気づけるようにクマの背中を叩いた。「お前もお前なりに一生懸命だったんだろ? あいつもちゃんと分かってっし。お前も自分が悪いって反省してるじゃんか」「うん……」「戻ってきたら、下手に言い訳しないでちゃんと謝れ。橿宮はそっちのほうを望んでんだ」「でも……」「俺も一緒にいてやるから、な?」「ヨースケ……!」 感きわまった顔をして、クマは「ありがとクマー!」と陽介に飛び付いた。勢いがついていたせいで、二人はそのまま地面に転がる。「ちょ、おま、バカ!」「ヨースケー!」 汚れるだろ!と叫ぶ陽介と、嬉しそうなクマの歓声が重なって響く。「…………」「どしたんすか、里中先輩」 陽介とクマのやりとりを黙ったまま見ている千枝に、完二が尋ねた。「……なんかさー、親子のやり取り眺めてるみたい」「は?」「母親に怒られた息子を父親が慰めるっーの? なんか見ててそんな気がした。ドラマとかでありそうじゃない?」 うーん、と頭を捻る千枝に完二が言った。「何か違和感ねえのが逆に嫌っつうか……」 先輩はやく戻ってこねえかな、と完二はぼやいてラボの入り口を見た。早く仲直りしてもらって、胸の中に蹲る居心地の悪さから、早く解放されたかった。 [0回]PR