忍者ブログ
二次創作(小説のみ)やオフラインの情報を置いてます。

/親子のような 陽介+クマ+完二+千枝




「あれ? クマくんどしたの?」
 秘密結社研究ラボの入り口、クマが隅っこに蹲っていた。頭を抱えながら、ぷるぷると震えている。
 だいだら.に持っていく素材を手に入れようと、日向たちとラボへ入っていった時までは、普段通りのクマだったのに。急変した様子に、千枝は眉を潜めた。
 恐らく、ラボの中でその何かがあったんだろう。だがその時、千枝は同行していなかったので知る由もない。
 とりあえず近付いて「おーいクマきちー」と声を掛けたが、クマは千枝には気付かず、悲しい表情で震えるまま。今にも泣きそうに「センセイに嫌われちゃったクマ……」と呟いている。
 え?と言葉の内容に驚く千枝の腕を、完二が引いた。そのままクマから離れ、他の仲間たちがいるところまで連れていかれる。
「ちょっ、完二くん?」
「里中先輩。今はアイツそっとしておいてやったほうがいいっすよ。何言っても聞こえねえから」
「へ……? な、何で?」
 千枝は、完二と蹲っているクマを交互に見ながら困惑した。
「いや……」と頬を掻きながら、言葉を濁す完二に代わって、陽介が溜め息混じりに説明する。
「ほら、さっき俺と完二とクマで中に入ってっただろ。そん時にちょっと、な」
 シャドウとの戦闘は、日向が仲間に指示を出している。その指示は的確で効率的にも良いのだが、ある戦闘でクマは日向の指示を無視して動いてしまった。
「あん時、クマの攻撃でシャドウがみんなダウンしたから、アイツそのまま全滅させる気だったと思うんすよ」
 腕を組み、難しい顔で完二が空を仰いだ。毒々しい赤色の空に口を歪めて、でもと言葉を続ける。
「そん時、先輩クマに回復頼んでたんす」
「みんな結構ヤバかったからな。橿宮は体勢を整えるつもりだったんだろ」
「……でもクマくんは攻撃を優先させちゃった、ってこと?」
 クマの丸まった背中を見ながら言った陽介に、千枝はそう聞いた。
 陽介は千枝をちらりと見て、頷く。
 その後、クマの攻撃で倒しきれなかったシャドウが反撃し、危ないところまで追い詰められらしい。事情を知って、そりゃ橿宮くんも怒りそうだわ、と千枝は嘆息した。
 テレビの中でシャドウに倒されることは、死を意味する。こっちは絶対にやられてしまうわけにはいかない。
 道理で戻ってきた日向の表情がいつになく厳しかったんだと、千枝は納得してしまった。
「……オレ、先輩が本気で怒るの初めて見たっすけど……、すっげえ怖かった……」
 その時を思い出したのか、完二は寒気がして鳥肌が立った腕を擦る。
「怒鳴ったりはしねーんすよ。ただどうしてそんなことをしたのか、静かに聞いてて。クマが下手な言い訳繕ったら、辛そうな顔するし。それにあまりに真剣だから、見ているこっちも何か悪いことした気分に……」
 それきり完二は口を噤んでしまった。
 恐いもの知らずな完二でさえ、この反応。日向の静かな怒りを正面から受けたクマからすれば、かなりショックだったんだろう。
「あ、あたしその場にいなくて良かったかも」
 もし居合わせていたら、それはもう居心地が悪かったに違いない、と千枝は思った。クマと完二を見ていれば、それがよく分かる。
 落ち込み続けるクマに「……仕方ねえなあ」と陽介が近付く。隣りにしゃがみ、震え続ける背中を優しく叩いた。
「ヨースケ……。クマ、どうすればいいんだろう……? センセイがずっと口聞いてくれなくなったら、クマは……クマは……」
「大丈夫だって!」
 陽介はわざと明るく言って、元気づけるようにクマの背中を叩いた。
「お前もお前なりに一生懸命だったんだろ? あいつもちゃんと分かってっし。お前も自分が悪いって反省してるじゃんか」
「うん……」
「戻ってきたら、下手に言い訳しないでちゃんと謝れ。橿宮はそっちのほうを望んでんだ」
「でも……」
「俺も一緒にいてやるから、な?」
「ヨースケ……!」
 感きわまった顔をして、クマは「ありがとクマー!」と陽介に飛び付いた。勢いがついていたせいで、二人はそのまま地面に転がる。
「ちょ、おま、バカ!」
「ヨースケー!」
 汚れるだろ!と叫ぶ陽介と、嬉しそうなクマの歓声が重なって響く。


「…………」
「どしたんすか、里中先輩」
 陽介とクマのやりとりを黙ったまま見ている千枝に、完二が尋ねた。
「……なんかさー、親子のやり取り眺めてるみたい」
「は?」
「母親に怒られた息子を父親が慰めるっーの? なんか見ててそんな気がした。ドラマとかでありそうじゃない?」
 うーん、と頭を捻る千枝に完二が言った。
「何か違和感ねえのが逆に嫌っつうか……」
 先輩はやく戻ってこねえかな、と完二はぼやいてラボの入り口を見た。早く仲直りしてもらって、胸の中に蹲る居心地の悪さから、早く解放されたかった。

拍手[0回]

PR