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仕事のあとで




「ヨースケ。ヨースケー!」
 ジュネスのお菓子売り場で、陽介が荷物を陳列していると、クマがやってきた。同じく仕事中なのだが持ち場を離れているクマに、何やってんだお前は、と睨んだ。
 だがクマは怒られているのに上機嫌で笑っている。
「あのなー。今日クマは家に帰らんクマ! センセイの家に行く!」
「はぁ?」
 そして突飛なことを言い出され、陽介は陳列する手を止め怪訝にクマを見た。
「突然何を言ってるんだお前は……。止めとけ。いきなり押しかけたら橿宮もいい迷惑だろ」
「ところがそうでもないクマなー」
 じゃじゃーん、とクマは広げた腕を後ろに差し向けた。その先にはカゴを手にした日向の姿。
「橿宮?」
「仕事お疲れ様、陽介」
 ゆっくりした足取りで近付いた日向は、労りの言葉を陽介に掛ける。手のカゴにはカゴには野菜や肉などの、夕食の材料らしいものが入っていた。今日はカレーなんだ、とカゴを見た陽介に日向が説明する。
「それで、クマのことなんだけど。さっきそこで会って」
 夕食の材料を買いに来たこと。今日は堂島が仕事で泊まりになったことを話し、それを聞いたクマが堂島家に行きたいと言い出したようだった。
「クマはまだセンセイの作ったゴハンまだ食べたことがないクマ。ヨースケとはしょっちゅうお弁当一緒に食べてるのクマ知ってるからずっと羨ましかったクマよ。だから今日はセンセイの家でスペシャルディナーをもっきゅもきゅって洒落こむんだクマー! だからいいでしょヨースケ。行きたい行きたい行きたいクマー!」
「……いいのか? こんなの家に誘って」
 興奮してはしゃぐクマを見て、大丈夫かと陽介は日向に聞いた。
「うん。まあ二人きりのご飯も多いから、菜々子も喜ぶと思う」
「そりゃ、クマが一緒だったら賑やかになるだろうな……。つかうるせー時もあっけど」
 クマは人間の姿をとってから、陽介の家に居候している。今まで食事をしたことがなかったクマは、ご飯の度にこれはなんだと言っては無駄に感動して、花村家の食卓を賑やかにしていた。賑やかすぎて、怒られる時もあるが。ついでに陽介にまで飛び火して。
 頭を乱暴に掻きながら陽介は溜め息をついた。突然の思い付きなら、止めなければならないだろう。だが今回は日向も許しているので陽介にも、クマを止める理由はない。「仕方ねえなぁ」と呟くと「言っていいクマか!?」とクマが眼を輝かせた。
「その代わり仕事をきちんと終わらせろよ。それから絶対橿宮に迷惑を掛けないこと! それ守れないなら、これからはぜってー許さないからな!」
「り、了解だクマ!」
 びしっと敬礼し、クマは持ち場へと戻っていく。それだけ日向や菜々子と食事がしたかったのだろう。可愛いところもあるじゃないか。そう考えてると「むふふふ……。今日はナナチャンもセンセイも寝かさないクマよー。めくるめく素敵な夜を過ごすクマ……!」と一回聞いただけでは誤解を受けてしまいそうなことを言っているクマの声が聞こえた。
「全然分かってねーじゃねえか……!」
 話を聞いてないクマに、怒りを燃す陽介の横で日向が困ったように笑う。
「笑ってる場合か! あの調子だと迷惑掛ける可能性ありすぎるわ!」
「じゃあ、陽介も来る?」
「へ?」
「クマのお目付けも兼ねて。人数が多い方が賑やかで菜々子も喜ぶ」
「い、いいのか?」
 うん、と頷き日向は「……その方が俺も楽しい、から」と笑う。
「…………」
「仕事終わったら連絡ほしい。それに合わせて準備しとくから」
「あ、ああ分かった」
「うん。じゃあまた後で。仕事頑張れ」
 カゴを片手にレジへ向かう日向を見送り、陽介は俄然やる気がわいて来た。さっきの日向の笑顔が頭から離れない。あそこであんな顔ってことは俺が来るのが嬉しいってことだよな。そう思うと自然と顔が緩んでしまう。
「いやいや。俺はクマのお目付け役なんだからな。それで行くんだからな」
 言い訳がましく呟きながら、つい浮かれてしまう。これではクマを悪く言えない。
 荷だしをする手の動きが早くなる。終わった後の楽しい時間を考えると、心が踊るようだった。


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 陽介に押し倒された日向は、ぱちりと目を丸くした。妙に切羽詰まった陽介をじっと見て「……正夢?」と首を傾げる。
「なんだよ、それ」
 日向とは対照的に、余裕のない声で陽介が言った。床に押し付けた日向の肩を掴む力が強くなる。
「昨日夢を見たんだ。何故か陽介とプロレスする夢」
「なっ……」
「一回マウント取られて今みたいな体勢になったから、それが重なって。で、それが正夢になったのかと」
「んな訳ねぇだろ!」
 陽介が叫んで、日向の言葉を否定した。
「お前さ、考えてみろよ! 付き合ってる二人が良い雰囲気でいるところにこの体勢! この流れでヤるって言ったら一つしかねぇだろが!」
「……だから、プロレス?」
「だーかーらー!」
 空気読めよ!と真っ赤になって怒鳴る陽介に、日向はぷっと吹き出した。
「いや悪かった。冗談冗談」
「……へ?」
「ちゃんと分ってる。陽介が何したいのか」
 日向は腕を上げて、陽介の頬を指先で撫でた。
「かわいいな、陽介は」
「お前は質わりーよ……」
 深々と息を吐く陽介は、それでも日向の上から退かない。きっと日向を見据え「見てろよ。プロレスよりすげえことしてやるからな」と挑発する。
 それはどんなことなんだろう。そう思いながらも、日向は「お手柔らかに頼むよ」と陽介の首に腕を回して引き寄せた。


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有効期限付きの席



 昼休みはいつも日向と食べるようになってきた。雪子や千枝が混じる時もたまにはあるが、大抵は二人で屋上に行くのが定番になりつつある。
 いつも昼食には購買のパンな自分とは違い、日向は弁当を持参している。世話になっている堂島の弁当を作るついでらしい。
 並んで座り、さっそく弁当の蓋を開ける日向の手元を除きこむ。卵焼きにウインナー、ポテトサラダが綺麗に詰め込まれていた。彩りも考えられてパセリも添えられている辺り、凝っていると思う。
 雪子や千枝にも見習ってほしいもんだ。そう考え、林間学校の得も言われぬカレーを思い出しげんなりした。アレは絶対有り得ない。
「……どうした?」
 じっと弁当を見つめる視線に、日向が陽介の顔を覗きこみ首を傾げて尋ねる。
「えっ? あっ、あー。お前の弁当うまそうだなーって」
 いきなり話しかけられた驚きから、ついうわずった声で答えてしまう。うわ何でこんな声出してんだ、オレ。自分の出した声のトーンに驚いてしまう。
「食べるか?」
 物欲しそうな顔をしていたのか、日向が「ほら」と卵焼きを箸で挟んで陽介に差し出した。
「……え、いいのか?」
「ああ」
 頷かれ、さらに口許に卵焼きを向けてくる。
 食べさせてもらう格好に内心どよめきながらも、陽介は口を開いて卵焼きを食べた。
 ふんわりと甘い味が広がっていく。母親が作るものよりも、断然美味しい。
「うまっ。お前相変わらず料理上手いなー。アイツらにも見習ってほしいぜ」
 心からそう思いながら言うと、日向は「そうか」と小さく笑った。
「そう言ってくれると嬉しい。あげて良かったって思えるから」
「おうよ。いくらだって言ってやるぜ。その代わり、また何かくれよ? オレお前の料理好きだし」
「考えとく」
 満更でもないらしい日向は頷き、残った卵焼きを口に運んだ。
 ――あ。
 弁当を食べる日向を見て、重大なことに気付いてしまった。
 もしかして間接キスじゃねえかこれ!
 思い切りうろたえてしまう。意識し過ぎだと言われればそれまでだがついつい日向の口に目がいってしまうのを止められない。
 間接的でも同じ場所に口が触れたんだよな。考えた途端、かっと頬が熱くなった。
「……どうした? 陽介顔が赤いぞ」
 顔を凝視し、日向は弁当を脇に置いた。「熱でもあるか?」と伸ばした手を陽介の額に当てた。もう片方の手は自分の額に当て、熱の高さを計っている。
「……少し熱いな。どこか具合でも」
「いやいやいやいや! 大丈夫だから! すっげ元気だから!!」
 日向との距離が近くなり、慌てて陽介は身体を離した。
「……そうか?」
 首を傾げながらも日向は「なら、いいけど」と陽介の額に当てていた手を戻した。
「でも無理するな。最近テレビの中に行ってばかりだから、疲れが溜まっているかもしれない。……今日は止めておこうか。クマには悪いけど。それでいいな」
 尋ねられ「俺はかまわないぜ」と陽介は頷いた。日向は自称特別捜査のメンバーのリーダーで、誰もが彼のやりやすいように探索のペースを決めていいと了承している。日向はリーダーの名に恥じない有能ぶりだ。彼についていくのは安心出来る。否定する理由など陽介にはない。
 何より、日向が自分を気遣ってくれた。些細な事がとても嬉しく、つい頬が緩んでしまった。
 出会ってまだ数ヶ月。その間は起った事件の数々で、日向がまるでずっと一緒にいるような錯覚を陽介に抱かせるほど濃密だった。隣に日向がいない時をもう想像出来ない。
 だが、日向の隣にいられるのは来年までだ。次に桜が咲く頃、春になったら彼はいなくなってしまう。
 まだ随分後の事なのに、陽介はそれを恐れてしまう。一年は短すぎる。多分、他の仲間たちもそう思っているだろう。
「なぁ、俺今度肉じゃが食いてーな。弁当に入れてきてよ」
 胸に広がる寂しさを吹き飛ばすように、陽介はわざと明るい声で言った。
「じゃがいもがきれてる」
「ジュネスで買えばいいだろ。付き合うし」
 だから、な。
 片目をつむってねだると日向は陽介の顔を見ながら不思議そうに目を瞬いた。箸で摘んだままだったポテトサラダを口に運び飲み込んで「わかった」と頷く。
「菜々子も行きたがってるし、じゃあ今日にでも」
「おう。今日はいいぞー。セールやってるからな。お買い得商品満載だ」
「何だかジュネスの回し者みたいだ、陽介」
 思わず笑った日向に「そんなんじゃねえって!」と口を尖らせたが、すぐに笑い返した。
 こうして他愛ない話で過ごせる短い昼休み。時間よ、もっと遅く進め。
 もっと長く、こいつの隣に居られるように。
 日向の笑う顔を見ながら、陽介はそう思った。

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ヘッドフォン


 ヘッドホンから流れる音楽を聞いていると、つい足でリズムをとってしまう。休み時間いつものように音楽を陽介が聞いていると、不意に前の席の日向が後ろを振り向いた。陽介の机に肘をついて、じっと見つめてくる。
「な、なんだ?」
 凝視されて流石に落ち着かず、陽介は音楽を停止させヘッドホンを外した。
「何を聞いているのか気になる」
 ヘッドホンに視線を移しながら日向が自分の耳を指差して言った。
「シャドウと戦っている時も聞いてるから、陽介はどんな音楽聞いているのか、ずっと不思議に思ってた」
「なら、聞いてみっか? 結構いい曲入ってるし」
 陽介はヘッドホンを外して日向に向けた。「いいのか?」と聞く声に「いいって」と頷きさらに差し出す。
「じゃあ、聞いてみる」
 日向が差し出されたそれを受け取って耳に当てる。そして陽介が音楽を再生させた途端、「うわ」と日向は眉間に皺を寄せ、当てたばかりのヘッドホンを耳から遠ざけた。
「音、大きいな。いつもこれぐらいなのか?」
「そうだけど。少し小さめにしてやろうか」
 自分は慣れているが、日向からすれば大きすぎたらしい。陽介はボリュームを操作して音量を下げた。
「あ、うん。これぐらいでいい」
 恐る恐るヘッドホンを耳に押し当てていた日向は、ヘッドホンをつけ直し、目を閉じる。リズムを取るように小さく頭を振って、音楽に聞き入っている。どうやらお気に召してくれたらしい。
 自分の好きなものが受け入れられて、陽介は嬉しくなった。同じものが好きだと、なんだかそれがもっと好きになれるようだ。日向とならもっと。
 頬杖をついて、陽介はじっくり日向を見る。すぐ近くに目を閉じた相棒の顔。自分の茶色い髪と、日向の少し薄めの黒髪が触れあってる。間近で日向の顔を見ることは滅多にないので、とても新鮮だった。
 何だかくすぐってーな。そう思いながらも陽介は休み時間が終るまでこのままでいれるよう、こっそり祈った。

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