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ジュンゴ主





「……うーん」
 ジプス自室のベッドに寝転がり、優輝は難しい顔をして携帯電話をいじっていた。画面にはデビルオークションのアプリ画面が表示されている。かれこれ数時間粘っているが、なかなかめぼしい悪魔が現れない。
 日を追うごとに、現れる悪魔もセプテントリオンも強力になっていく。今のままの仲魔では心許ない部分があった。
 駄目だ。
 並べられたオークションリストにざっと目を通し、優輝は見切りをつけた。アプリを終了した携帯電話を閉じ、起き上がってベッドから降りる。少し時間を置いてリスト更新を待つべきだろうと判断した。
 上着を羽織り部屋を出る。時間はもうすぐ日付を越える。当たり前だが廊下はしんと静まり返っていた。誰の姿もない。
 音を立てないよう静かに扉を閉め、優輝はこっそり外に向かう。こつこつと一歩足を前に出す度、廊下を歩く靴が硬質な音を立てた。
 オークションの悪魔を競り落とすには、先立つもの――マッカが必要になる。いざ欲しい悪魔が出てきて、マッカが足りないでは話にならない。だからリストが更新される頃まで、外をうろつく悪魔を倒そうと考えた。
 国会議事堂に通じるエレベーターのボタンを押す。上に移動されたままらしい、下に向かうとエレベーターのランプが告げた。
「……」
 落ち着かない様子で優輝は辺りを見回す。そわそわしているその肩を、後ろから伸びた手が叩いた。
「――っ!?」
 いきなり肩から走った軽い衝撃に弾かれて優輝は後ろを振り返った。
 帽子と長めの前髪の奥から見える目が、少し丸くなった。
「何だ、ジュンゴか」
 見知った男に優輝は身体の緊張を解いた。てっきり深夜の外出を咎めようとしたジプス職員だと思っていたから安堵し、身体ごと純吾に向き直って尋ねた。
「どうしたんだ? もしかしていつもと違う場所だから寝られないのか?」
 名古屋支局にいる純吾が東京にいるのは理由がある。セプテントリオンが出てくる度に召集を掛ける手間が惜しい。東京、名古屋――そして大阪と三都市がターミナルで繋がった日から、主要メンバーは一所に集まって寝食を共にすることになった。今日がその初日だ。
 純吾が首を振った。
「ううん……。ちょっとトイレ行ってた。そしたら、優輝見つけたから。……どこいくの?」
 そして今度は純吾から尋ね返され「オレはちょっと外に行ってくる。マッカが欲しい」と優輝は答え、そして内心焦った。しまった、そんなことを馬鹿正直に言ったら――。
「……ダメ。一人で外、危ないよ」
「やっぱりそう言うよな……」
 うっかりしていた。純吾は仲間が危険に遭うことを極端に嫌う。それで一度突っ走り名古屋の暴動で殺されかけた。彼の性格を考えれば一人で悪魔と戦いにいく優輝を見過ごせないだろう。
 困ったな、と頭をかきながら優輝は純吾をどう説得しようか考える。
「大丈夫。オレの仲魔は強いから、マッカなんてすぐに貯めて戻ってくる」
 事実、仲間内で優輝が従えている悪魔は大和に次いで能力が高い。そこらの野良悪魔など、恐れるに足りないだろう。
 しかし純吾は愛想笑いを浮かべる「ダメ」と顔を険しくし、強情に首を振る。
「悪魔じゃなくても、こわいもの沢山。だから一人で出るのはダメ」
「ほんのちょっと。三十分ぐらいだから」
「ダメ」
「………………」
 埒があかない。先の見えない問答に困り果てる優輝の背後で、ようやくエレベーターが扉を開いた。
 もうここは強引にでも行かせてもらおう。優輝は素早くエレベーターに乗り込み、階上へ向かうボタンを押した。続いて、閉ボタンを連打する。
「とにかくオレは大丈夫だから。ジュンゴは寝てろって!」
 じゃあ、と言い残し、エレベーターの扉が閉まっていく。地上に続くエレベーターはこの一つしかない。追いかけようにも大幅なタイムロスを強いられる。その間に見つからない場所まで逃げれば問題ない。
 だんだんと狭まる向こう側。純吾が呆然と立ち尽くしていたが、弾かれたようにエレベーターの扉に近づき、隙間に手を差した。がっ、と鈍い音がして、閉まる寸前だった扉が止まる。
「――っ!?」
 逃げ切れたと胸をなで下ろしていた優輝の表情が一変して強ばる。再度開かれた扉から、純吾が乗り込んだ。心なしか眼光が鋭く、優輝は無意識に後ずさるが、すぐ壁に阻まれた。
 扉が閉まり、エレベーターが地上に向かって昇り出す。
 純吾は大きく一歩踏みだし、呆気なく優輝との距離を縮める。緩く握られた手を肩の高さまで上げた。
 殴られる――のだろうか。痛みを覚悟して肩を竦めた優輝はぎゅっと瞼を閉じた。
 こつん、と額に軽く純吾の甲が当てられる。
「一人はダメ」
 静かな純吾の声に、優輝は恐る恐る瞼を上げた。様子をうかがうように彼の顔を見ると、純吾はとても悲しそうな顔をしている。
「優輝はがんばりやさん。だから強い。だけど怪我しない訳じゃない……でしょう?」
「それは……そうだけど…………」
 今日だって幾度か負傷している。口ごもる優輝に「ジュンゴ、優輝が怪我するかもしれないのに、眠るなんてできないよ」と純吾は言った。
「でもオレだって明日に備えて大切なことをするつもりなんだ。引くつもりはないぞ」
「うん。わかってる。優輝はガンコなところもあるの、ジュンゴ知ってる。だから――ジュンゴも行く」
「え……?」
「一人はダメ。でも二人なら何があっても何とかできるよ」
 ようやく純吾が笑い、優輝の額を小突いた手を退けた。
「それにマッカも早くたまる。早くたまれば早く帰れる。……いい考え」
 こくこくと頷いて純吾は一人納得する。
 ……こっちはそれでいいとは一言も言ってないんだけど。小突かれた額に片手を当て、最早やる気になっている純吾を複雑な表情で見た。心配してくれての行動だろうとわかっていても、こっちが勝手に期待してしまうじゃないか。純吾の優しさに触れていくうちに、彼が気になっている優輝としては、寧ろ二人の方が怪我をする確率が高い気がした。
「がんばろうね」
 優輝の隣に立ち、純吾は待ち遠しくエレベーター上部に着いている現在地のランプを見上げる。
「そうだな」とぶっきらぼうに応え、優輝は緊張が伝わらないように純吾から僅かに離れた。

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ジュンゴ主




 サイドテーブルにあるコンセントに携帯電話の充電器を差し込む。優輝は先端のプラグを携帯電話を繋げ、背中からベッドに飛び込んだ。身体がベッドに弾み、スプリングがぎしっと音を立てる。
 大の字になって仰向けになり、ベッドからはみ出た足をぶらつかせながら天井を見上げた。ぼんやりと、自分が選んだ選択の意味を噛みしめる。
 優輝は誰とも争わない道を提案した大地の手を取った。大和の言う実力主義も、ロナウドの唱えた平等主義も全く理解不能ではない。けれど、二人の思想にはどちらも極端さが見え隠れしていた。どっちも自分の考えが正しいと信じすぎて周りに対し盲目になっている。
 だからこそ優輝は大地の考えに賛同した。どちらに傾くのではなく、納得いくまでぶつかって話し合って、お互いが共存しあう世界を模索していきたい。
「……でも説得のまえにあいつらと戦わなきゃなんだよな」
 優輝はため息を吐いた。大和とロナウドにはそれぞれ賛同するかつての仲間たちがついている。みんなの強さはこれまでの戦いから身に染みている。それにセプテントリオンもまだ残っている。
 仲間との戦い――説得。そしてセプテントリオンの撃退。やることはたくさんありそうだ。優輝は充電器に繋がれた携帯電話を見やる。まだ充電は終わっていない。やることは決まっているし早めに眠って明日に備えておかないと。
「優輝……起きてる?」
 寝ようと靴を脱ぐ途中、ドアをノックされた。片言のちょっとたどたどしい声の持ち主を、優輝は一人しか知らない。
 優輝は「寝てる」と答えた。
 少し沈黙が落ちてから「……入るね」とゆっくりドアが開き、純吾が顔を覗かせた。
「寝てるって言ったのに」
 ベッドに転がったまま、優輝は口を尖らせた。
 純吾は優しく笑って「でも……入っちゃダメって言ってない」と言った。部屋の隅にあるイスを見つけて、ベッドの側まで運ぶとそれに座った。
 優輝は枕を腕に抱え、純吾に背中を向けた。
「それで、何のようだ」
 枕に顔を埋め、優輝は尋ねる。少しだけ頬が熱くなってきた。
「ん……。本当に優輝がいるのか確かめたくなったから」
 純吾が答える。
「ジュンゴ、優輝が来てくれるって信じていた。だけど……不安もあった。もしかしたらヤマトやロナウドのところにいってしまうんじゃないかって」
「だから、ちゃんとオレがいるのか確かめにきたのか?」
「……ん」
 ぎしり、と近くでマットが沈む音がして、優輝の肩がつつかれる。
「こっちむいて、優輝」
「……やだ」
「どうして?」
「恥ずかしいからだ!」
 優輝は一層強い力でぎゅっと枕を抱きしめた。身体を丸め、触るなと無言のオーラを出す。さっきまで考えていたまともなことが、弾けてどこかに行ってしまった。
「恥ずかしい? ……どうして?」
「お前は自分でさっき言ったことも忘れたのか!?」
 繰り返される純吾のどうしてに耐えれなくなった優輝が手を突いて起き上がった。振り返る勢いで掴んだ枕を純吾に投げつける。至近距離で投げつけられた枕は寸分違わず純吾の顔に命中し、そのまま膝に落ちた。
「忘れたとは言わせないぞ! あの時お前はオレに、……オレに」
「ジュンゴ、優輝好きだって言った」
「覚えてるじゃないか!」
 優輝は憤慨して純吾を睨みつけた。
 純吾はきょとんとして優輝を見返す。
 一緒に他の道を探すことを選んだ優輝に、大地の考えに賛同し東京に残った仲間はとても喜んでくれた。ほっと胸をなで下ろす維緒に、百人力だ、と嬉しいことを言ってくれる緋那子。そして純吾には何故か抱きつかれて。
「ジュンゴ、優輝好きだ。絶対に来てくれるって、信じてたよ!」
 まるで告白のような言葉に優輝は固まってしまった。そのことを思い出すと、優輝は何故かとても恥ずかしくなってしまう。他のみんなは「またジュンゴが何か言ってる」と軽く済ませているのに。
「お前はオレのどこが好きなんだ?」
 胡座をかき、腕を組んだ優輝は難しい顔をして尋ねた。
「どこ?」
「お、オレは自分が面倒くさい性格だとわかっているつもりだ」
 眠たいときに眠り、食べたいときには食べる、本能に近い行動。時には不遜な態度をとることだってある。時折自分のした行動を後で後悔する時もあった。あくまでこっそりと、だけど。
「ジュンゴだってわかってるんだろ。それでもオレを好きなのか?」
「好きだよ」
 単純明快な答えが返ってきた。あっさり打ち返された言葉のボールに、優輝は慌てた。純吾が「優輝、かわいい」と微笑むので、もっと慌ててしまう。
「優輝はおいしそうにご飯食べたり、気持ちよさそうに眠る。生きることを疎かにしないところ、好き」
「……」
「あと、それから」
「もう言うな」
 優輝は手を前に出し、純吾の言葉を遮る。そっぽを向いて「ジュンゴは恥ずかしい奴だな」とぼやいた。放っておいたらもっと恥ずかしいことを聞かされそうで、発狂しそうだ。
「ジュンゴ、恥ずかしいこと言ってないよ。当たり前のことしか、言ってない」
「……」
「だから……がんばろう、優輝」
 優輝の手を純吾はそっと握りしめた。板前という職業上水を使うせいか、掌がかさかさしている。本来、人の空腹を見たし喜ばせる手が、悪魔を屠る為に振るわれるのが少し哀しいと優輝は思う。
「ジュンゴ、優輝好きだから。全部終わった後、世界がどんなになっても、一緒にいたい」
「……じゅんごもいる?」
 純吾が拾った猫の名前優輝は出した。分かりやすい名前がいいと、自分の名前を付ける純吾に、少し呆れたのは数日前のことなのに、ずっと昔のことのように思える。今は比較的安全なところにいる猫は、すべて終わったらまた迎えに行くと、純吾は言っていた。
「うん、じゅんごも一緒。優輝もじゅんごも一緒……。ジュンゴ、幸せ。……優輝は幸せ?」
 少し不安そうに聞かれ、優輝はすぐに「しあわせ」と繋がった手を握り返した。純粋な行為が照れくさくて、くすぐったくて、そして温かい。
 どうしておれを好いてくれるのか、疑問は解消されなかったけどこうしているとどうでもよくなってくる。それよりももっとこの温もりを感じていたくて。
「いまも、しあわせ」
 優輝は繋がれた手を一度離し、指を絡めて握り直した。ぎゅっと繋がれた温もりにジュンゴは驚いたように目を瞬かせ「ジュンゴも」と幸せをちりばめた笑みを浮かべた。

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