ジュンゴ主 デビサバシリーズ 2013年04月29日 猫は好きだ。気まぐれなときもあるけれど、見せる仕草は愛らしく懐いてくれた時の感動は一言で言い表せない。撫でていると毛並みの柔らかさや触れたところから伝わる体温に、時が経つのも忘れて手を止められなさそうになる。 今だってほら、膝の上でかわいい猫が丸くなってくつろいでいる。触っても警戒される様子は微塵もない。乱暴をしなければいつまでだって撫でていられる。 だけど。 優輝は両手をぎゅっと握りしめる。「……ジュンゴ、ここは外だ。人だって通り過ぎるしこの座り方は止めないか?」「……だめ」 すぐ反対され、後ろから伸びた手が困惑する優輝を抱きしめた。「だけど……この体勢落ち着かないんだけど」 逞しい腕に拘束され、優輝は窮屈に身じろぎしながら後ろを振り返る。「だめ、まだこのまま」 純吾が開いた脚の間に座らせた優輝の肩越しにじゅんごを見下ろす。「それにジュンゴが動いたら、じゅんごが起きちゃう。まだまだ、そのまま」「でもジュンゴはじゅんご抱っこしたいんだろう? これじゃ出来ないよ?」 そもそもどうしてこんな体勢になったのか、優輝の頭に疑問がよぎる。並んで座ろうと思ったら、何故か純吾に腕を引っ張られこうして彼の中に収まってしまった。「じゅんご抱っこすると優輝抱っこできなくなる。だけど、優輝がじゅんごだっこする。そしてジュンゴがじゅんごをだっこする優輝をだっこする」 純吾が満足そうに笑う。「こうすれば、優輝もじゅんごもだっこできる。ジュンゴ賢い」「それは賢いって言うよりも理屈っぽいって言うんだ!」 恥ずかしい。こんなところを仲間の誰かに見られたら、と思う優輝は気が気じゃなかった。しかし無理矢理逃げようとしたら、じゅんごが驚いてしまうだろう。せっかく懐いたのに、驚かせて警戒されてしまったら、と思うと実力行使に出られず、ひたすら誰も通り過ぎないよう祈るしかなかった。「ジュンゴ、優輝とじゅんごだっこできて幸せ」 幸せに縁取られた吐息が優輝の耳元をくすぐった。びり、と背中に甘い痺れを感じつつ、優輝はここから抜け出したら純吾を一発殴る、と心に誓った。 [0回]
ジュンゴ主 デビサバシリーズ 2013年04月29日 緊張のあまり、オレの身体は硬直してしまった。がちがちになって動かないオレにキスをしていた純吾は顔を上げて「優輝、どうかしたの?」と心配そうに尋ねる。「顔が赤くなってる。熱出た?」「出てない」 オレは強がりながらも、まともに純吾の顔が見れなくてそっぽを向いた。ちくしょう、何で純吾は平然としてるんだ。こっちは恥ずかしいわ、ドキドキするわで内心すごく慌てているのに。「本当に?」 純吾がオレのほっぺたに手の甲を当てた。「やっぱり熱が出てる。ほっぺた熱い」「熱じゃないって! これは恥ずかしいからだ!」 このままではベッドに強制連行されて看病されかねない。オレはやけくそで言った。「恥ずかしい?」 分かっちゃいたけど、純吾はオレがどうして恥ずかしいのか、理解していない。だからこっちが一人振り回されがちになるのが少し悔しい。「……だからっ」「うん」 オレの言葉を一字一句聞き逃すまい、と純吾がオレの目をじっと見て続きを待った。だから、そういうのが心臓に悪いといい加減に気づいてほしい。自然と視線が泳ぐ。「オ、オレはこういうの慣れてない……んだ」「でも、優輝、ダイチとよく同じようなことしてるよ?」「全然違うってあんなの……。同じじゃない」 大地とかとじゃれあったりもするけれど、アレは幼なじみの気安さからくるものだ。大地も同じように思っているだろうし、もう一種のコミュニケーションになっている。「第一、オレはダイチとキスとかしてない。全然……同じじゃないって」「……優輝は、キスするの恥ずかしい?」「だからずばりと確信を突くのはやめろって……」 オレは手のひらで顔を覆う。純吾は言葉をオブラートに包まないから、時折こっちが慌てるほどの発言を平気で行う。だから高い確率でこっちはいつでも顔から火が出そうだ。「優輝、さっきよりも顔が赤くなってる。耳も真っ赤」「だから、慣れてないって言ってるだろ……」 大地とのじゃれあいは日常茶飯事だったけど、純吾に抱きしめられたりキスされたり――誰かに恋人として接しられるのはこれまでなかったから。経験不足な心が、勝手に竦んで慌てて、オレを混乱させた。 くすくすと純吾の笑う声が聞こえる。ああ、ムカつく。何で純吾はオレより精神年齢低そうなのに、どうしてあんなに余裕があるんだ。悔しい。「優輝、顔上げて?」 そっと純吾の両手がオレのほっぺたを包み込んだ。そのまま軽く仰向けられる。恐る恐る顔を覆っていた手を離したオレの目に、微笑む純吾が映る。 オレの心臓がばくんばくんとうるさくなる。反射的に後ずさりそうな身体を「逃げちゃダメ」と純吾が牽制した。「ジュンゴわかった。優輝はキスに慣れてない」「だからさっきそう言った」「うん。だから、慣れるまでしよう?」「は? 何言っ――――んっ……」 口が塞がれる。純吾の右手がオレの腰に回って、逃げれないようホールドされた。心臓の音が伝わるんじゃないかって思うほど、身体が密着する。 ちょ、ちょ、ちょっと待ってって。何だよこの展開。オレの心臓が爆発する! 必死に反論しようにも、口は塞がれるどころか舌まで入って――っていうか、本当何で余裕があるんだこいつは。こっちは酸欠になりそうなのに。「ん…んん……っ」「はっ……」 頭がぼうっとしたところで、ようやく純吾はオレを解放してくれた。唾液で濡れた唇が空気に触れて、ちょっと冷たさを感じる。だけどそれを拭う暇も惜しんで、オレは肺に新鮮な酸素を取り入れようと、大きく息を繰り返した。 胸を擦るオレの濡れた唇を、純吾が拭った。「……慣れた?」「慣れない!」 というか、あれで慣れると思ったのか。逆に余計身体がガチガチになりそうだ。 ふくれっ面をするオレを見つめ「じゃあもっとしよ?」と純吾はとんでもないことを言い出す。「もっとって……」 青ざめるオレに純吾は名案を思いついて嬉しいのか「優輝が慣れるまで。たくさんしたら、すぐ慣れるよ」とにこにこ笑った。 ……その顔が、オレには怖く見えるのは気のせいか。天然怖い。「んなわけあるか!」「大丈夫。優しくする」「優しくするとかしないとかそう言う問題じゃなくて!」 オレは怒ってまくし立てるが、全く純吾には効いていない。だから、どうして分かってくれないんだ。オレが恥ずかしいと思うのは、純吾が好きで触られるだけで緊張してしまうのがバレそうだからって。 口に出せば済みそうな問題。だけど素直に口に出せない自分の性格が災いする。「大丈夫、大丈夫」 根拠のない慰めを呟き、純吾の顔が近づいてくる。鼻先が触れるところでオレは観念してぎゅっと目をつむり、大きく息を吸った。 [0回]
ジュンゴ主 デビサバシリーズ 2013年04月29日 純吾がセンタリングパークに危険はないかと見回っていたら、階下から聞きなれた声が二人分した。一人は同じ名古屋支局の仲間である亜衣梨の声。 そしてもう一つは――。「……優輝」 純吾の一番大切な存在、北原優輝のものだった。 二人は階段に並んで座っていた。話しているのは専ら亜衣梨で時折相槌を打つ優輝は聞き役に徹しているようだった。純吾とあまり変わらない立場になっている優輝に思わず微笑む。亜衣梨は感情が高ぶるとまくし立てるように話す。恐らく、口を挟む暇もないんだろう。 どうしよう。階上の植え込みから二人の背中を見つめ、純吾は迷う。毎日世界の復興に誰もが忙しく走り回っている中で、一時の休息時間。亜衣梨は純吾と同じ意味合いで優輝を気にしているところがある。邪魔したら、怒った彼女から鉄拳を喰らいそうだ。飛び上がって、垂直に振りおろされる手刀はなかなかきつい攻撃力を持っている。 だけど、優輝が自分以外の誰かと二人きりでいるところを見つけて、純吾の心は波立つ。だって、優輝は純吾の――。「……」 純吾は無言で植え込みから離れ、階段を降りた。後ろからの足音に、優輝と亜衣梨が同時に振り向く。二人の目がきょとんと純吾を見上げた。「ジュンゴ?」「ちょ、いきなり出てきてなんなのよ!」 優輝が首を傾げ、亜衣梨は案の定邪魔が入ってむっとしている。純吾は優輝の前に回り、彼の脇の下へ両腕を入れた。 わっ、と優輝が驚く。軽々と肩にかつぎ上げられ目を白黒させた。 呆然と見上げる亜衣梨に「……ごめんね」と純吾は眉尻を下げる。「何がよ!? っていうか優輝下ろしなさいよねっ!」 怒る亜衣梨に「できない」と純吾はふるふる首を振った。不安定な体勢から落ちないよう首にしがみつく優輝を両腕で支え「優輝、ジュンゴのだから」と言い放った。「……は?」「だから、ごめんね」 呆然とする亜衣梨を余所に純吾は優輝を抱えたまま、さっさと階段を昇った。「バカ!」とセンタリングパークから離れる純吾の背中を、優輝が容赦ない力で叩いた。「いきなり何を言ってるんだ、お前は!」「本当のこと、言っただけだよ」「オレはお前のものになったつもりないぞ」「じゃあジュンゴが優輝のものだ」「だーかーらー!」 降ろせ、と暴れられ純吾は仕方なく優輝を地面に下ろした。このまま名古屋支局にある自室まで連れていきたかったのに、と残念に思う。 地面に立ち優輝が怒った表情で純吾を見上げた。「オレはジュンゴのものだとか、ジュンゴがオレのものだとか。そういう以前にやらないといけないことがあるのはわかるか?」「……?」「アイリに謝れ」 厳しい口調で優輝はセンタリングパークを指差した。「今回はどこからどう見てもジュンゴが悪い。ジュンゴだってもしオレと話している途中でいきなり誰かにどこかへ連れていかれたらどう思う?」「……イヤだ」 せっかく楽しく話していたのに、と優輝に言われたことを想像して純吾は悲しくなった。そして気づく。亜衣梨も今、純吾が感じたことを味わっていることを。「……ジュンゴ、アイリにごめんなさいする」「うん。……それでいい」 反省して肩を落とす純吾の片手を笑った優輝が取った。「じゃあ早く謝ろう」 来た道を戻りながら純吾は「謝った後、ジュンゴもいていい?」と優輝に尋ねた。僅かに振り向き優輝は前に顔を戻して言った。「アイリ次第だ。まあチョップは覚悟しとけ」「うん。がんばる。……あと」「まだあるのか?」「アイリとのおしゃべり終わったら、二人きりなれる?」「……まあ、善処する」 ほそぼそと呟く優輝に純吾はにっこり笑って「約束」と繋いだ手を強く握りしめた。 [0回]
ジュンゴ主 デビサバシリーズ 2013年04月29日 「……うーん」 ジプス自室のベッドに寝転がり、優輝は難しい顔をして携帯電話をいじっていた。画面にはデビルオークションのアプリ画面が表示されている。かれこれ数時間粘っているが、なかなかめぼしい悪魔が現れない。 日を追うごとに、現れる悪魔もセプテントリオンも強力になっていく。今のままの仲魔では心許ない部分があった。 駄目だ。 並べられたオークションリストにざっと目を通し、優輝は見切りをつけた。アプリを終了した携帯電話を閉じ、起き上がってベッドから降りる。少し時間を置いてリスト更新を待つべきだろうと判断した。 上着を羽織り部屋を出る。時間はもうすぐ日付を越える。当たり前だが廊下はしんと静まり返っていた。誰の姿もない。 音を立てないよう静かに扉を閉め、優輝はこっそり外に向かう。こつこつと一歩足を前に出す度、廊下を歩く靴が硬質な音を立てた。 オークションの悪魔を競り落とすには、先立つもの――マッカが必要になる。いざ欲しい悪魔が出てきて、マッカが足りないでは話にならない。だからリストが更新される頃まで、外をうろつく悪魔を倒そうと考えた。 国会議事堂に通じるエレベーターのボタンを押す。上に移動されたままらしい、下に向かうとエレベーターのランプが告げた。「……」 落ち着かない様子で優輝は辺りを見回す。そわそわしているその肩を、後ろから伸びた手が叩いた。「――っ!?」 いきなり肩から走った軽い衝撃に弾かれて優輝は後ろを振り返った。 帽子と長めの前髪の奥から見える目が、少し丸くなった。「何だ、ジュンゴか」 見知った男に優輝は身体の緊張を解いた。てっきり深夜の外出を咎めようとしたジプス職員だと思っていたから安堵し、身体ごと純吾に向き直って尋ねた。「どうしたんだ? もしかしていつもと違う場所だから寝られないのか?」 名古屋支局にいる純吾が東京にいるのは理由がある。セプテントリオンが出てくる度に召集を掛ける手間が惜しい。東京、名古屋――そして大阪と三都市がターミナルで繋がった日から、主要メンバーは一所に集まって寝食を共にすることになった。今日がその初日だ。 純吾が首を振った。「ううん……。ちょっとトイレ行ってた。そしたら、優輝見つけたから。……どこいくの?」 そして今度は純吾から尋ね返され「オレはちょっと外に行ってくる。マッカが欲しい」と優輝は答え、そして内心焦った。しまった、そんなことを馬鹿正直に言ったら――。「……ダメ。一人で外、危ないよ」「やっぱりそう言うよな……」 うっかりしていた。純吾は仲間が危険に遭うことを極端に嫌う。それで一度突っ走り名古屋の暴動で殺されかけた。彼の性格を考えれば一人で悪魔と戦いにいく優輝を見過ごせないだろう。 困ったな、と頭をかきながら優輝は純吾をどう説得しようか考える。「大丈夫。オレの仲魔は強いから、マッカなんてすぐに貯めて戻ってくる」 事実、仲間内で優輝が従えている悪魔は大和に次いで能力が高い。そこらの野良悪魔など、恐れるに足りないだろう。 しかし純吾は愛想笑いを浮かべる「ダメ」と顔を険しくし、強情に首を振る。「悪魔じゃなくても、こわいもの沢山。だから一人で出るのはダメ」「ほんのちょっと。三十分ぐらいだから」「ダメ」「………………」 埒があかない。先の見えない問答に困り果てる優輝の背後で、ようやくエレベーターが扉を開いた。 もうここは強引にでも行かせてもらおう。優輝は素早くエレベーターに乗り込み、階上へ向かうボタンを押した。続いて、閉ボタンを連打する。「とにかくオレは大丈夫だから。ジュンゴは寝てろって!」 じゃあ、と言い残し、エレベーターの扉が閉まっていく。地上に続くエレベーターはこの一つしかない。追いかけようにも大幅なタイムロスを強いられる。その間に見つからない場所まで逃げれば問題ない。 だんだんと狭まる向こう側。純吾が呆然と立ち尽くしていたが、弾かれたようにエレベーターの扉に近づき、隙間に手を差した。がっ、と鈍い音がして、閉まる寸前だった扉が止まる。「――っ!?」 逃げ切れたと胸をなで下ろしていた優輝の表情が一変して強ばる。再度開かれた扉から、純吾が乗り込んだ。心なしか眼光が鋭く、優輝は無意識に後ずさるが、すぐ壁に阻まれた。 扉が閉まり、エレベーターが地上に向かって昇り出す。 純吾は大きく一歩踏みだし、呆気なく優輝との距離を縮める。緩く握られた手を肩の高さまで上げた。 殴られる――のだろうか。痛みを覚悟して肩を竦めた優輝はぎゅっと瞼を閉じた。 こつん、と額に軽く純吾の甲が当てられる。「一人はダメ」 静かな純吾の声に、優輝は恐る恐る瞼を上げた。様子をうかがうように彼の顔を見ると、純吾はとても悲しそうな顔をしている。「優輝はがんばりやさん。だから強い。だけど怪我しない訳じゃない……でしょう?」「それは……そうだけど…………」 今日だって幾度か負傷している。口ごもる優輝に「ジュンゴ、優輝が怪我するかもしれないのに、眠るなんてできないよ」と純吾は言った。「でもオレだって明日に備えて大切なことをするつもりなんだ。引くつもりはないぞ」「うん。わかってる。優輝はガンコなところもあるの、ジュンゴ知ってる。だから――ジュンゴも行く」「え……?」「一人はダメ。でも二人なら何があっても何とかできるよ」 ようやく純吾が笑い、優輝の額を小突いた手を退けた。「それにマッカも早くたまる。早くたまれば早く帰れる。……いい考え」 こくこくと頷いて純吾は一人納得する。 ……こっちはそれでいいとは一言も言ってないんだけど。小突かれた額に片手を当て、最早やる気になっている純吾を複雑な表情で見た。心配してくれての行動だろうとわかっていても、こっちが勝手に期待してしまうじゃないか。純吾の優しさに触れていくうちに、彼が気になっている優輝としては、寧ろ二人の方が怪我をする確率が高い気がした。「がんばろうね」 優輝の隣に立ち、純吾は待ち遠しくエレベーター上部に着いている現在地のランプを見上げる。「そうだな」とぶっきらぼうに応え、優輝は緊張が伝わらないように純吾から僅かに離れた。 [0回]