忍者ブログ
二次創作(小説のみ)やオフラインの情報を置いてます。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

ジュンゴ主




 サイドテーブルにあるコンセントに携帯電話の充電器を差し込む。優輝は先端のプラグを携帯電話を繋げ、背中からベッドに飛び込んだ。身体がベッドに弾み、スプリングがぎしっと音を立てる。
 大の字になって仰向けになり、ベッドからはみ出た足をぶらつかせながら天井を見上げた。ぼんやりと、自分が選んだ選択の意味を噛みしめる。
 優輝は誰とも争わない道を提案した大地の手を取った。大和の言う実力主義も、ロナウドの唱えた平等主義も全く理解不能ではない。けれど、二人の思想にはどちらも極端さが見え隠れしていた。どっちも自分の考えが正しいと信じすぎて周りに対し盲目になっている。
 だからこそ優輝は大地の考えに賛同した。どちらに傾くのではなく、納得いくまでぶつかって話し合って、お互いが共存しあう世界を模索していきたい。
「……でも説得のまえにあいつらと戦わなきゃなんだよな」
 優輝はため息を吐いた。大和とロナウドにはそれぞれ賛同するかつての仲間たちがついている。みんなの強さはこれまでの戦いから身に染みている。それにセプテントリオンもまだ残っている。
 仲間との戦い――説得。そしてセプテントリオンの撃退。やることはたくさんありそうだ。優輝は充電器に繋がれた携帯電話を見やる。まだ充電は終わっていない。やることは決まっているし早めに眠って明日に備えておかないと。
「優輝……起きてる?」
 寝ようと靴を脱ぐ途中、ドアをノックされた。片言のちょっとたどたどしい声の持ち主を、優輝は一人しか知らない。
 優輝は「寝てる」と答えた。
 少し沈黙が落ちてから「……入るね」とゆっくりドアが開き、純吾が顔を覗かせた。
「寝てるって言ったのに」
 ベッドに転がったまま、優輝は口を尖らせた。
 純吾は優しく笑って「でも……入っちゃダメって言ってない」と言った。部屋の隅にあるイスを見つけて、ベッドの側まで運ぶとそれに座った。
 優輝は枕を腕に抱え、純吾に背中を向けた。
「それで、何のようだ」
 枕に顔を埋め、優輝は尋ねる。少しだけ頬が熱くなってきた。
「ん……。本当に優輝がいるのか確かめたくなったから」
 純吾が答える。
「ジュンゴ、優輝が来てくれるって信じていた。だけど……不安もあった。もしかしたらヤマトやロナウドのところにいってしまうんじゃないかって」
「だから、ちゃんとオレがいるのか確かめにきたのか?」
「……ん」
 ぎしり、と近くでマットが沈む音がして、優輝の肩がつつかれる。
「こっちむいて、優輝」
「……やだ」
「どうして?」
「恥ずかしいからだ!」
 優輝は一層強い力でぎゅっと枕を抱きしめた。身体を丸め、触るなと無言のオーラを出す。さっきまで考えていたまともなことが、弾けてどこかに行ってしまった。
「恥ずかしい? ……どうして?」
「お前は自分でさっき言ったことも忘れたのか!?」
 繰り返される純吾のどうしてに耐えれなくなった優輝が手を突いて起き上がった。振り返る勢いで掴んだ枕を純吾に投げつける。至近距離で投げつけられた枕は寸分違わず純吾の顔に命中し、そのまま膝に落ちた。
「忘れたとは言わせないぞ! あの時お前はオレに、……オレに」
「ジュンゴ、優輝好きだって言った」
「覚えてるじゃないか!」
 優輝は憤慨して純吾を睨みつけた。
 純吾はきょとんとして優輝を見返す。
 一緒に他の道を探すことを選んだ優輝に、大地の考えに賛同し東京に残った仲間はとても喜んでくれた。ほっと胸をなで下ろす維緒に、百人力だ、と嬉しいことを言ってくれる緋那子。そして純吾には何故か抱きつかれて。
「ジュンゴ、優輝好きだ。絶対に来てくれるって、信じてたよ!」
 まるで告白のような言葉に優輝は固まってしまった。そのことを思い出すと、優輝は何故かとても恥ずかしくなってしまう。他のみんなは「またジュンゴが何か言ってる」と軽く済ませているのに。
「お前はオレのどこが好きなんだ?」
 胡座をかき、腕を組んだ優輝は難しい顔をして尋ねた。
「どこ?」
「お、オレは自分が面倒くさい性格だとわかっているつもりだ」
 眠たいときに眠り、食べたいときには食べる、本能に近い行動。時には不遜な態度をとることだってある。時折自分のした行動を後で後悔する時もあった。あくまでこっそりと、だけど。
「ジュンゴだってわかってるんだろ。それでもオレを好きなのか?」
「好きだよ」
 単純明快な答えが返ってきた。あっさり打ち返された言葉のボールに、優輝は慌てた。純吾が「優輝、かわいい」と微笑むので、もっと慌ててしまう。
「優輝はおいしそうにご飯食べたり、気持ちよさそうに眠る。生きることを疎かにしないところ、好き」
「……」
「あと、それから」
「もう言うな」
 優輝は手を前に出し、純吾の言葉を遮る。そっぽを向いて「ジュンゴは恥ずかしい奴だな」とぼやいた。放っておいたらもっと恥ずかしいことを聞かされそうで、発狂しそうだ。
「ジュンゴ、恥ずかしいこと言ってないよ。当たり前のことしか、言ってない」
「……」
「だから……がんばろう、優輝」
 優輝の手を純吾はそっと握りしめた。板前という職業上水を使うせいか、掌がかさかさしている。本来、人の空腹を見たし喜ばせる手が、悪魔を屠る為に振るわれるのが少し哀しいと優輝は思う。
「ジュンゴ、優輝好きだから。全部終わった後、世界がどんなになっても、一緒にいたい」
「……じゅんごもいる?」
 純吾が拾った猫の名前優輝は出した。分かりやすい名前がいいと、自分の名前を付ける純吾に、少し呆れたのは数日前のことなのに、ずっと昔のことのように思える。今は比較的安全なところにいる猫は、すべて終わったらまた迎えに行くと、純吾は言っていた。
「うん、じゅんごも一緒。優輝もじゅんごも一緒……。ジュンゴ、幸せ。……優輝は幸せ?」
 少し不安そうに聞かれ、優輝はすぐに「しあわせ」と繋がった手を握り返した。純粋な行為が照れくさくて、くすぐったくて、そして温かい。
 どうしておれを好いてくれるのか、疑問は解消されなかったけどこうしているとどうでもよくなってくる。それよりももっとこの温もりを感じていたくて。
「いまも、しあわせ」
 優輝は繋がれた手を一度離し、指を絡めて握り直した。ぎゅっと繋がれた温もりにジュンゴは驚いたように目を瞬かせ「ジュンゴも」と幸せをちりばめた笑みを浮かべた。

拍手[0回]

PR

ジレンマ 七代と壇と蒐




 窓に頬杖をついた七代が、溜息を吐いた。悩める様子に「どうしたんだよ」と燈治が声をかける。
「バカみてえにのんきな奴がらしくねえな。悩み事があるなら、相談に乗るぜ?」
「壇……」
 七代は心配してくれる燈治に、くすりと笑みを零した。
「ありがとう」
「いいってことよ。俺とお前の仲だしな。で、何悩んでるんだ?」
「……実は」
 七代は指貫手袋を嵌められた右手をじっと見つめる。その下には隠者の刻印が刻まれていることを思い出し、燈治はやるせない思いになった。七代は普通なら持ちえぬ力を有している。それ故に、傷つくことがあったんじゃないか。燈治の身体が無意識に七代へ傾けられる。俺にやれることがあるなら、してやりたい。
 燈治の考えを裏付けるように、悲しく瞼を伏せた七代は左手で右の手をそっと摩った。
「おれ、どうしたらいいのかわからなくて」
「千馗」
「おれ……」
 七代は握り締めた両手を窓の桟に叩きつける。
「蒐のこと、頭撫でたいのに撫でれないんです……!」
「…………は?」
 燈治の眼が、点になった。蒐の頭が何だって?
「……なでりゃあいいじゃねえか。お前、そんなことで悩んでるのか?」
「そんなこと? そんなことってそんなことですか? そんなことでもおれは真剣に悩んでいるのに……!」
「そんなことそんなことって連呼すんな」
「わかってない。壇は何にも分かってない」
 七代は燈治を睨み、熱く語りだす。
「可愛い後輩は猫かわいがりしたいじゃないですか。頭とか、よしよしーってしたいじゃないですか。でも蒐は紙袋被ってるじゃないですか。紙袋は脆いの、撫でたらすぐぐちゃってなるの。分かる? 分かるよね?」
「ああ、まぁ、な」
 濁点ごとに迫ってくる七代に気圧され、燈治はかくかくと首ふり人形のごとく頷く。ここで余計な口を挟んだら、三倍になって跳ね返ることを燈治は知っていた。伊達にこいつの素っ頓狂な言動に一番長く付き合ってきた訳じゃない。
「蒐が四角を好むなら、あいつの被ってる紙袋をぐちゃってしたくないんです。四角じゃないってしょんぼりされたら、おれもしょんぼりしちゃいますし」
「……」
 どこから突っ込めばいいんだろうか。燈治は行き場のない手を軽く振る。とりあえず、全部に突っ込みたい。
「でも、撫でたい。撫でたいんです! あんな可愛い後輩可愛がれないなんてどういうことですか!?」
 震える右手首を左手で掴み嘆く七代に燈治は「俺に聞くなっ!」と喚いた。
「ああっ」と大げさに七代はふらふらよろめき、燈治から離れて涙を拭うしぐさを見せた。
「壇は冷たい。おれの悩みを聞いてくれるって言ったのに。一緒の風呂に入った仲なのに……」
 不機嫌に七代が唇を尖らせる。どっと疲れが押し寄せて、燈治は頭を押さえた。
「……お前がそういう素っ頓狂なことをしなかったら、もっと真剣に聞いてやる。それに蒐の紙袋が気になるんだったら、本人に聞いてみりゃいい話だろ。ほれ、あそこ」
 肩越しに燈治が立てた親指で差した先を七代が眼で追う。教室の出入り口から、そっとこちらを覗き込む四角の角が見える。
「蒐?」
 七代が呼ぶと、角はぴくりと震えて扉の向こうに隠れてしまった。しかし、気を取り直したかのようにまた現れ、ゆっくりと出てくる。
「千馗、センパイ」
 大切な四角がたくさん収められたファイルで口元の辺りを隠し、七代の前に立った蒐が「あのね」と小首を傾げた。
「センパイが僕を撫でてくれるの、四角い、よ」
「えっ?」
「確かに、この袋はぐしゃってなって、四角くなくなっちゃう、けど。センパイに撫でてもらえないほうが、三角、かな」
「そ、それって、蒐の頭撫でていいってこと?」
 照れているのか、俯きがちになる蒐の顔を覗き込み、七代が訊いた。
「うん」と僅かに、でも確かに蒐は頷く。
「センパイが僕を大切にしたいって気持ち、とても、四角い。四角いのなら、僕は、大歓迎、だよ」
「……蒐っ!」
 感極まった七代が、人目をはばからず両手を大きく広げ、蒐を抱きしめた。一足飛びの行動に「おい、千馗っ!」と燈治が声を荒げる。
 しかし七代はお構いなしだ。ぎゅうぎゅうに蒐を抱きしめ、今まで出来なかった分、蒐の頭を撫でる。がさがさと紙が擦れる音がしたが、蒐の口からは一つも文句が出てこない。
「かわいいなぁ、蒐はかわいいなぁ! また今度、一緒に四角を探すたびに出ような!」
「うん。センパイが一緒なら、どこでだって、いい四角、見つかるよ。だってセンパイがいい四角そのものだもの」
「――蒐!」
 思いがけない言葉に、感極まった七代は「蒐も四角いですよ!」と笑いながら蒐の頭を撫でる。被っていた紙袋は、もうすっかりでこぼこになっていた。
 でも。
「……ま、いいか」
 その様子を見て、燈治は七代を止めようと伸ばした手を戻した。
 燈治からは紙袋を被っている蒐がどんな表情をしているのかわからない。しかし、なんとなく、とても嬉しそうな顔をしているんじゃないかと思い、二人の様子をそっと見守った。

拍手[0回]

昼下がりの共犯者 七代と弥紀



 保健室で蒐くんに四角のことを教えてもらってから帰ってきた教室は、ちょっと不思議な雰囲気になっていた。みんな、落ち着かない様子で後ろのほうを見ている。ざわざわと落ち着かない空気が教室いっぱいに広がっているみたい。
 何か、あったのかな?
 少しわくわくして、わたしも皆につられて同じ方向を見た。
「あ……」
 皆が見ていたのは、七代くんと壇くんだ。壇くんは自分の席で俯せに寝ている。そして七代くんが椅子を壇くんの席のほうへと向けて、せわしなく手を動かしていた。
 壇くんが昼休みの教室にいることと、その壇くんの傍にいる七代くんは高校三年の二学期に突然現れた、季節外れの転校生。二つの珍しさが一緒になっているから、皆驚いているのかも。
 ここにわたしが入ったら、もっと珍しくなってクラスの皆は驚くのかな。そんなことを考えたわたしは少し笑って二人に近づく。
「七代くん。何してるの?」
 後ろから呼んだわたしに、手を止めた七代くんが「穂坂さん」と肩越しにこっちを見た。そしてぱっちりした眼を猫みたいに細めて笑うと、立てた人差し指を口許に当てる。静かに、のポーズにわたしは慌てて口を押さえた。そうだよね。うるさくしてたら、壇くん、起きちゃうよね。
 だけど壇くんは起きる様子もない。昨日は不思議なことがたくさんあったから、疲れてるんだろうなって思う。でも、夢じゃないんだ。右手がたまにあったかくなること。そして七代くんがここにいることが、夢じゃない何よりの証拠。
 七代くんが小声で「これ、どうです?」と膝に乗せていたものをわたしに見せてくれた。小さめのスケッチブックに、七代くんは絵を描く人なんだ、と新しい発見に嬉しくなる。
「見てもいいの?」
 小声で聞くわたしに七代くんは大きく頷いた。わたしのほうへ向き直り差し出してくれたスケッチブックを受け取る。
 ありがとう、とお礼を言ってから、わたしはさっきまで七代くんが描いていたものを見た。
 そこには机に突っ伏して寝ている壇くんの姿。七代くんの描く線は柔らかくて優しい感じがする。今目の前で寝ている壇くんと見比べて、七代くんにはこんな風に見えるんだなぁって思っちゃった。大切に想ってるんだって。
「壇には内緒にしてくださいね」
 また人差し指を立てた七代くんが、小さい声で言った。
「ばれちゃうと恥ずかしがって没収されちゃいますから」
 そんなことはしないと思う。けど、恥ずかしがったりはしちゃうんだろうな。そうなった時のことを考える。顔を赤くして怒って、でも結局もう勝手に描くなよって、七代くんを許しちゃうんだろうな。
 よく描けてるでしょう、と誇らしそうに腰へ手を当てた七代くんが胸を反らして言う。
 うんと頷いてわたしはスケッチブックを返した。
「すごく上手だよ」
 すると七代くんはとても嬉しそうに笑って「いつかはちゃんとモデルになってくれたら嬉しいんですけどね」と壇くんを見る。
「じゃあ実現した時にはわたしも見学させてね」
「もちろん」
 ちょっとした共犯者の気分でわたしは七代くんと笑い合う。
 その横では壇くんが、はんぺん、と呟きながらうなされていた。

拍手[0回]

チロル 零主



 地震で出来た横穴を通り、雉明は風穴から脱出した。氣を探り、七代といちるの場所を探る。脱出、していればいいんだが。
「……よかった」
 ここからずっと離れた外に二人の氣を感じ、眉間にしわを寄せていた雉明はほっと胸を撫で下ろした。すぐ近くに伊佐地の氣もある。これなら後はもう大丈夫だろう。
 雉明は崩れてしまった横穴に背を向けて、この場を後にする。ここでの目的は達成した。これで、カミフダをずっと楽に制御出来るはずだ。
 雉明は右の手の甲を見た。指貫き手袋の下、隠者の杖に貫かれ刻まれた印。
 三人で、一緒に。
「…………」
 雉明は立ち止まった。見つめていた右手を下ろし、七代たちがいるだろう方向を振り向く。


 きみを、信じてもいいのか、と七代に問うたとき、彼はこう答えた。
「手、出してください」
「……?」
 質問に答えない七代に首を捻りながら、それでも素直に手を出す。
「手の平を上にして」
 七代に言われた通りにすると、手の平に小さく四角いものが転がった。あ、チョコ、と横でいちるの声がする。
「これは……?」
 困惑して雉明がチョコから視線を上げると、七代がにっこり笑った。
「顔が強張ってるから。甘いもの食べて落ち着いてもらおうかなって。もしかして、別のがよかったですか?」
「……まだあるのか?」
「ありますよ」とズボンのポケットを探った七代は、得意顔で握った両手を雉明の目の前で広げた。言葉通り色とりどりの包み紙で包まれたチョコがたくさん七代の手に乗っている。
「わっ、すっごーい!」
 こぼれ落ちそうなほどの量に、いちるが目を輝かせた。私にもちょうだい、とねだるいちるに「はい、どうぞー」と振る舞う七代。伊佐地が「遠足じゃないんだぞ……」とため息をついている。
「……」
 どう答えればいいんだろう。手の平に乗せられたチョコと七代の顔を、雉明は交互に見た。こう言うときの対処は、自分のなかに情報として入っていない。
 しかし七代は楽しそうに笑っている。
「おれは信じていいのか、と聞かれてすぐに頷けるほど自信はないです。それに器が大きくもないでしょう。でも二人よりは荒事には慣れているほうでしょうから、一番前に立つことは出来る」
 七代の深い黒の眼がすっと細まった。
「だから信じるとか信じないとかそれを見て決めてくれたらいいです」
「……もし、信じないといったら、きみはどうする?」
「やることは変わりませんから」
 七代ははっきりと淀みない口調で言う。
「どちらにしてもおれは雉明も武藤も守りますから」
 その時の笑みが、雉明の脳へと鮮やかに焼き付く。


 今思うと七代は緊張を解そうと、あえておちゃらけたように振る舞ったのだろう。だけど、いきなり信じてもいいのか、と尋ねた雉明を馬鹿にするでもなく、七代は自分の言葉で答えてくれた。守ってくれた。
 異形のものと相対しても怯まない背中。恐れを知らず振るわれる拳。
 そして何よりも印象に残るのは、あの、底知れぬ力を秘めたあの瞳。自身も気づいていないようだったが、七代はかなりの力を秘めているようだった。
 それこそ『あの血筋』よりも――。
 あるいは。もしかしたら。彼ならば。
 漠然とした予感が胸を過ぎる。それは雉明にとって、藁をも掴むような小さい可能性だった。
 だけど。
「おれは、きみを信じる」
 感じたものを信じ、零はそっと呟いた。前を向き、道なき道を歩き出す。おれも彼も同じ封札師だ。同じカミフダを追っていくうちにまた会える日も来る。
 こんな形で別れたことを、七代は怒るだろうか。雉明は制服のポケットを探った。指先に当たる感触は、彼から貰ったチョコレート。食べるのがもったいなくて、取っていた。
 チョコをくれた七代の表情を思い出す。眩しい笑顔だった記憶に、何故だか雉明の瞼の奥がつんと熱くなった。

拍手[0回]