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壇主小話



 物欲しそうな目をしていたので、俺は七代にキスをした。
 首をさっと屈め、すぐ隣にいる七代の唇に自分のを合わせる。
 何のことはない、ただ触れて離れただけの軽いやつだ。だが、そんな生やさしい接触に七代は「いっ、いきなりなにするんですかっ」と赤くなった顔で唇を隠した。
「不意打ちなんて……卑怯ですよっ。卑怯なのは壇嫌いなんでしょう」
「……確かに卑怯は嫌いだけどよ」
 何事にも例外があって、俺にとっては七代に不意打ちで触れることがそれに当たる。理由を聞かれたら、そりゃ七代の反応が見ていて面白いからだ、と答えるだろう。
 いや面白い、と言うのも語弊がある。面白い、と言うより、かわいい、方がもっと近い表現か。
 とにかく見ているだけで俺はたまらない気持ちになってしまう。七代は「不意打ち卑怯」と怒っても、またやりたくなってしまうのだ。
 俺は意地の悪さを含んで笑い「じゃあちゃんと宣言すればやってもいいんだな」と言った。七代の側にある腕を上げ、きょとんと目を丸くした相棒の頬に掌を這わせる。
「――ヤらせろ」
「……っ!?」
 正々堂々としたいことを宣言したら、七代の顔がさらに赤くなった。びっくりして全身の毛を逆立てた猫のように身体が固まり、後ずさりして俺から逃げる。
 置いてきぼりにされた手を戻し「ちゃんと正直に言っただろ」と俺は言った。
「ろ、露骨すぎるんですよっ! は、は、恥ずかしいっ」
 壁に背をぶつけて止まった七代は「昔の壇はどこ言っちゃったんですかね、本当に……。会ったときはひっついたらすぐに逃げる子だったのに」と俺を警戒する目つきで睨んだ。
「お前がそうさせたんだろ。昔も、今も」
 俺は腰を浮かし膝立ちで七代に近づいた。
 七代は俺の粗暴じみた挙動にも、周りのくだらない噂にも構わず近づいてきた。それに絆され七代の隣に居場所を見いだした俺は今、自分から距離を縮める。
 どっちも七代がいるからこそ、起きていることだ。
「責任をとれ、とは言わねえが」
 あっと言う間に距離を詰めた俺は床に手を突き、七代に顔を近づけた。
「受け入れるぐらいは出来るだろ」
 言ってまたキスをする。今度は触れるだけじゃなく、七代の口の中へ舌を入れた。
 七代の肩がびくんと跳ねる。だけど俺はまた逃げられても困るので、右手で奴の左肩を掴んだ。
 キスを深くしながら、掴んでいた七代の肩を引き寄せ、座りなおした俺の胸の中へと閉じこめる。その弾みで唇が離れ「……んっ」と七代から悩ましい声が漏れる。エロい。
 抱きしめる背中に力を込め「ま、手加減してやるからよ」と譲歩を口にするが、返ってきたのは「壇の手加減は信用ならない」という七代の呆れだった。でも受け入れてはくれるんだろう。もう七代から、逃げる素振りは全く見られない。
「せめて終わっても歩けるぐらいには優しくしてくださいよ」
 ふてくされて言う七代に、俺は破顔した。
「わかってるっつーの。優しくしてやるって」
 多分。そう心の中で付け加え、俺は七代を床に寝かせる。結構な確率で無茶をしてしまうのは、何となく目に見えていたからだ。こいつがエロいのが悪い。
 それを言ったら七代は怒るだろうけど、事実なのだから否定はしない。
 さて、どこまで手加減できるか。自分自身に賭けをするような気持ちで、俺は七代の服のボタンを外した。

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壇主小話




 台所を適当に漁って見つけた菓子やジュースを手に部屋に戻った燈治が見たものは、何故か片隅で正座をしている相棒の姿だった。異様に姿勢を正し、一目で緊張していると分かる。
「……何やってるんだ、お前は」
 燈治は持っていたものを真ん中の卓へ置き、七代の傍で屈んだ。
「そんな隅っこにいてもどうしようもねえだろ。取って食いやしないからよ、こっちこいって」
「いやでも」
 七代が燈治を見上げ「緊張するものは緊張するので仕方がないのです」と言った。自信満々な物言いに、燈治は少し脱力感を覚え、がくりと肩を落とした。
「お前な……、家に来たいっていったのそっちだろ」
 燈治の部屋を見てみたい、と請われ七代ならいいだろう、と連れてきた自分の家。くつろいでもいいぜ、と言ったのに、こうもがちがちに固まられたのでは、こちらも返す反応に困ってしまう。
「そんな隅っこで固まられてたら、俺も緊張するだろ。いいから、こっちこいって」
 燈治は無理矢理七代の腕を引っ張る。突然の行動に、七代は「うわっ」と声を上げ体を崩した。
 ずるずると伸びた体を引っ張り、燈治は七代を部屋の真ん中まで移動させる。後ずさるふくらはぎに卓が当たったところで、その手を離した。
 ぱたりと引っ張られた七代の腕が床に落ち、恨めしそうな視線が下から這いよった。
「うう、壇ひどい」
「ははっ、ここは俺の部屋で、俺が一番偉いようなものだからな。ちゃんと言うことは聞いてもらうぜ」
 笑って傍らに座る燈治に「何ですか、その俺様理論……」と七代は頬を膨らませ、仰向けになった。そして大きく息を吸って、吐いて「……落ち着きますねえ」と頬を緩める。さっきまで緊張していた人間の言うことではない。
「えらい、さっきとは違うことを言うな」
 そう茶化す燈治に「あの時も落ち着いていたんです!」と無茶な理屈と拳を振りかざした。
「だって、壇の部屋すごくおれの好きな匂いするし、ベッドとかそこの座布団とか、飛び込んだり顔を埋めたりしたら、すごく気持ちよさそうだし……。だけど、初めてきたその日にそんなことするのは、流石に図々しいとおれは思ったわけですよ。だから、自重の為にもおれはあそこで葛藤していたわけです」
「全く意味がないけどな……」
 散々無遠慮で距離を詰めてきたくせに。変なところで遠慮する。ったく、と燈治は半分呆れた。
「だから最初に言ってんだろ。くつろいどけって。変な遠慮なんてすんな」
「……」
 七代が瞬きをし「じゃあ」と仰向けのまま燈治に手を伸ばした。
「壇も一緒にごろごろしましょうよ」
「……しょうがねえな」
 たまには、何もせずゆっくり過ごす。こんな日があってもいいだろう。燈治は伸ばした手を取ると、笑って七代の誘いに乗った。

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壇主小話


※同棲設定壇主ですよ


 濡れた髪にタオルを被せ、入浴を終えた七代は居間に向かった。
 居間は電源がつけられたテレビがニュースを流している。先に風呂から上がっていた燈治が横になってそれを見ているようだった。
「燈治さーん。お風呂からあがったからおやつ……」
 冷凍庫にしまったアイスクリームを食べてもいいか聞きかけた七代は、途中で言葉を止めた。気配を感じればすぐこちらを向く燈治が、テレビを見たままの状態から動かない。
 この反応は、おかしい。
「燈治さん?」
 七代はそっと足音を忍ばせて燈治の後ろで膝を突いた。そして身を乗り出し、顔を覗き込む。
 燈治は、寝ていた。自分の腕を枕代わりにし、もう片方の手でリモコンを持ったまま規則正しい寝息を繰り返している。
「……明日久しぶりの休みだから、気が緩んだんですかね?」
 燈治は割と忙しい毎日を送っている。大学での課題やドッグタグのバイト。家に帰ったら、食事作りをはじめとする家事もしている。こんなに近くにいるのに目を覚まさないのだからよほど疲れたんだろう。
 二人で住んでるのだし、負担も二人で分けよう。
 そう七代が手伝いを申し出ても、任されるのは洗濯物を取り込んだり、部屋の掃除をしたり、と無難なものばかり。そして台所には絶対立たせてもらえない。
「おれの料理の腕前が下手なことは認めますけど、だからって全部しようとするから、疲れが貯まりやすくなるんですよ、もう」
 不満を呟き、七代は寝てしまった燈治の頬を指先で突く。
 燈治は相変わらず眠りの中から動こうとしない。
 とりあえず七代は燈治の手からリモコンを細心の注意を払って抜き取り、テレビの電源を落とした。一旦部屋を出て、寝室から毛布を持ってくる。いくら燈治でも何もかけないままでは調子を崩してしまう。
 こっちがしてもらっているように、抱き上げて寝室までつれてゆければ良いのだけれど。悲しいかな燈治を抱える筋力を、七代は持ち合わせていなかった。
 よいしょ、と七代は燈治に毛布を優しく掛けた。そして今度は向かい合うように七代は腰を下ろす。
 最近はベッドの上で見上げるばかりだった顔を、見下ろした。手を伸ばし、まるで子供にするように眠る燈治の頭を撫でる。
 七代の隣に立つと宣言し、そのための努力を怠らない燈治。その思いを一心に受け、七代は愛されてるなと実感する。だから、こうして疲れて眠る姿すら、愛しく思えて。
「…………だいすき、ですよ」
 口を微かに動かし声にならない言葉を紡いだ七代は、そっと前かがみになって、燈治の頬へ唇を落とした。
 軽く触れただけの唇は直ぐに離れ、七代の頬には朱が走る。風呂に入ったばかりなのに、余計熱くなってしまった。今燈治の目が覚めてしまったら、恥ずかしさに部屋の端でうずくまってしまいそうだ。
 顔を見られないためにも、七代はそそくさと燈治と一緒の毛布に潜り込む。体温が高いから、湯たんぽ代わりになるだろう。
 燈治に身を寄せ、七代はそっと瞼を閉じた。ラグを敷いただけの床は堅い。けど、燈治の体温が七代の思考をゆっくり眠りの波へ誘っていった。

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壇主小話


※エンディング後 同棲設定


 妙に自信たっぷりだったから、つい申し出に頷いたのがそもそもの間違いだった。
 焦げくさい臭いに、燈治は嫌な予感しかせず、台所に駆け込む。
 一歩キッチンに踏み込み、思い切り顔をしかめる。火災報知器が作動するほどの煙が、そこに充満していた。加えてうるさい警告音に、これはただ事じゃないと一目でわかる。
「馬鹿、お前何やってんだ!」
「だ、だ、壇……!!」
 もうもうと黒い煙を上げるフライパンの前で、涙目になった七代が振り向いた。青ざめた表情。起こった事態に頭が回らないらしく、ガスはついたままだ。
「ちょっとそこ退け!」
 燈治はガスコンロの前で慌てる七代を横に押し退け、火を止めた。続けて窓という窓を開け、煙を外へ逃がす。うるさく鳴り続ける火災報知器を止め、十分な煙を逃がしたところで、これで大丈夫だろうと確認した。
「……壇」
 ばたばたと燈治が動き回っている間、台所の隅でじっとしていた七代が、恐る恐る近づいた。一歩間違えれば火事になる状況に、さすがの七代も肩を落としてうなだれ「ごめんなさい」と燈治に謝る。
「……もういいって。わざとじゃねえんだしよ」
 あまりの落ち込みように、燈治も毒気が抜けた。俯いた七代の頭にぽんと手を置いて、慰めるように撫でる。
「だけど、今度はこうなる前に言えよ? それだったら駄目にならなくなるかもしんねえし」
 そういいながら、燈治は煙の元になったフライパンを見やった。真っ黒に焦げたフレンチトースト--だったものに、どこまで焼こうとしてたんだろう、と内心思う。
「うう。最近壇のフレンチトーストがだいぶ美味しいから、おれも作れるかと思ったのに……」
 頭を撫でられ落ち込んだ気持ちが浮上したのか、幾分覇気が戻った声で七代が悔しがった。
「そりゃ俺は、練習してるしマスターにいろいろ教わってるからな。全く料理しないお前と比べられても困る」
「でも、壇ですよ?」と七代は顔を上げて、ぎゅっと握り拳を作った。
「今まで料理のりの字も知らなかった壇が……、まさかフレンチトーストとか、ナポリタンとか作れるようになっただなんて……、おれでも作れると思ったっていいじゃないですか」
「そこで開きなおんな」
 さっきまでのしおらしさが嘘のようだ。燈治は呆れて頭に置いていた手を離し、そのまま七代の額を指で弾いた。
「あいたっ」と弾かれて軽く仰け反った七代が、赤くなった額を手のひらで押さえた。
「うう、ひどい。暴力反対」
「ひどいって思うんなら、お前も練習してみろよ。俺より美味しく作れたらちゃんと認めてやる」
「ううう……」
 うなる七代の頭をぽんと叩き「おら、まだやることは残ってんだからな」と燈治はガスコンロの方を顎でしゃくった。黒こげのフレンチトーストが鎮座しているフライパンは、洗うにも一苦労しそうな一品になり果てていた。
「これ洗わねーと、今日の夕食千馗の嫌いなものばっかりにするからな」
「ええっ」
「じゃなけりゃ、しばらく好物はお預けか--どっちにするんだ?」
「どっちも同じ。同じですから!」
 反論しながら、七代は大慌てでガスコンロへ戻る。そしてフライパンを手にしかけ--「あっち!」と悲鳴を上げた。見てて、何となく音を聞かせるとくねくね踊る玩具の花を思わせた。
「あー……ったく、あいつは……」
 いつでも騒がしい奴だ。転校してから、こうして一緒に暮らすようになって、ずいぶん静かな生活とはかけ離れた時間を過ごしている。恐らく、ずっと賑やかなままなんだろうと燈治は感じていた。
 望むところだ。俺は、千馗といられることが一番の望みなのだから。いつまでも、この騒がしさとつきあってやろう。
「だから、落ちつけって!」
 まずはこの状況を収めないと。フライパンが熱いと騒ぐ七代を落ち着かせる為、燈治は七代の元へ足を踏み出した。

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壇主小話




「――京都に行きたいです」
 放課後。屋上で何をするわけでもなくぼんやりしている燈治の耳に、千馗の呟きが耳に入った。欄干に頬杖をついて夕焼けの空を見上げる横顔に「京都?」と燈治は尋ね返す。
 七代は「はい」と空に視線を投げたままぼおっとして頷いた。
「秋の京都ってすごいんですよ。何て言うか……、紅葉がうわーって広がってて」
 欄干から手を離し、七代は大きく両腕を広げて「こんな風に一面にあっかいのが広がってるんです」と自分の見たものを燈治に伝えようとしてくれる。だが抽象的すぎてさっぱり伝わらなかった。
「全然わかんねぇよ。もうちょっと具体的なもんはねぇのか? ほら、場所とかよ」
「いやー、生憎忘れちゃったんですよねえ。京都って紅葉も綺麗ですけど、食べるものもおいしいですし。駄菓子とかさりげなーく地域限定的なものもありますし」
「お前な……」
 紅葉より食い気か。わかっていたが燈治は呆れてしまった。いや、それでも今紅葉の方に思いを馳せてた分、まだマシか。
「前お世話になった人にくっついて行って……ずっと後ろをちょろちょろしてたから、場所とかよくわからなかったんですよね」
 当時を思い出したのか、七代が小さく笑う。眼に昔を懐かしむ郷愁の色がふと浮かんでいた。
「ただ……山を登ったときの紅葉とそこから見える景色は今でもすごく覚えています。こんなに綺麗な景色まだまだあるんだなって。本当は絵にしたかったけど、おれその時は絵が下手くそだったし、時間もなかったから」
「……」
「あ、でも絵がまだまだなのは今も変わらないですけどね」
「……また、行けばいいだろ」
 七代から視線を反らし、燈治はぶっきらぼうに言った。頬に血が集まって、熱くなる。
「俺が、連れてってやっから」
「……え?」
 ぽかんとして七代は燈治を見上げた。燈治はまっすぐ前を見たまま、半分自棄になって言葉を続ける。
「約束、しただろ。お前をいろんな場所に連れてってやるって。それはここ--新宿だけじゃねえ。それ以外でもお前が望むなら、俺が……どこへだって連れてってやる」
「壇……」
 紡がれる言葉から伝わる率直な燈治の感情に、七代の顔もつられて赤くなった。そして素早く周囲を見回し、そっと燈治との距離を詰める。
 ゆっくり伸ばされた手が燈治の袖を引き、肩口に額を押しつけた。
「それが実現する前に、ちゃんと思い出しますから。だからちゃんと連れてってくださいね」
「……ったりまえだろ」
 当然のことを言うな、と返す照れ隠しのせいで不機嫌そうに聞こえる声に、そうですね、と七代は笑った。

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