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壇主小話




 台所を適当に漁って見つけた菓子やジュースを手に部屋に戻った燈治が見たものは、何故か片隅で正座をしている相棒の姿だった。異様に姿勢を正し、一目で緊張していると分かる。
「……何やってるんだ、お前は」
 燈治は持っていたものを真ん中の卓へ置き、七代の傍で屈んだ。
「そんな隅っこにいてもどうしようもねえだろ。取って食いやしないからよ、こっちこいって」
「いやでも」
 七代が燈治を見上げ「緊張するものは緊張するので仕方がないのです」と言った。自信満々な物言いに、燈治は少し脱力感を覚え、がくりと肩を落とした。
「お前な……、家に来たいっていったのそっちだろ」
 燈治の部屋を見てみたい、と請われ七代ならいいだろう、と連れてきた自分の家。くつろいでもいいぜ、と言ったのに、こうもがちがちに固まられたのでは、こちらも返す反応に困ってしまう。
「そんな隅っこで固まられてたら、俺も緊張するだろ。いいから、こっちこいって」
 燈治は無理矢理七代の腕を引っ張る。突然の行動に、七代は「うわっ」と声を上げ体を崩した。
 ずるずると伸びた体を引っ張り、燈治は七代を部屋の真ん中まで移動させる。後ずさるふくらはぎに卓が当たったところで、その手を離した。
 ぱたりと引っ張られた七代の腕が床に落ち、恨めしそうな視線が下から這いよった。
「うう、壇ひどい」
「ははっ、ここは俺の部屋で、俺が一番偉いようなものだからな。ちゃんと言うことは聞いてもらうぜ」
 笑って傍らに座る燈治に「何ですか、その俺様理論……」と七代は頬を膨らませ、仰向けになった。そして大きく息を吸って、吐いて「……落ち着きますねえ」と頬を緩める。さっきまで緊張していた人間の言うことではない。
「えらい、さっきとは違うことを言うな」
 そう茶化す燈治に「あの時も落ち着いていたんです!」と無茶な理屈と拳を振りかざした。
「だって、壇の部屋すごくおれの好きな匂いするし、ベッドとかそこの座布団とか、飛び込んだり顔を埋めたりしたら、すごく気持ちよさそうだし……。だけど、初めてきたその日にそんなことするのは、流石に図々しいとおれは思ったわけですよ。だから、自重の為にもおれはあそこで葛藤していたわけです」
「全く意味がないけどな……」
 散々無遠慮で距離を詰めてきたくせに。変なところで遠慮する。ったく、と燈治は半分呆れた。
「だから最初に言ってんだろ。くつろいどけって。変な遠慮なんてすんな」
「……」
 七代が瞬きをし「じゃあ」と仰向けのまま燈治に手を伸ばした。
「壇も一緒にごろごろしましょうよ」
「……しょうがねえな」
 たまには、何もせずゆっくり過ごす。こんな日があってもいいだろう。燈治は伸ばした手を取ると、笑って七代の誘いに乗った。

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壇主小話


※同棲設定壇主ですよ


 濡れた髪にタオルを被せ、入浴を終えた七代は居間に向かった。
 居間は電源がつけられたテレビがニュースを流している。先に風呂から上がっていた燈治が横になってそれを見ているようだった。
「燈治さーん。お風呂からあがったからおやつ……」
 冷凍庫にしまったアイスクリームを食べてもいいか聞きかけた七代は、途中で言葉を止めた。気配を感じればすぐこちらを向く燈治が、テレビを見たままの状態から動かない。
 この反応は、おかしい。
「燈治さん?」
 七代はそっと足音を忍ばせて燈治の後ろで膝を突いた。そして身を乗り出し、顔を覗き込む。
 燈治は、寝ていた。自分の腕を枕代わりにし、もう片方の手でリモコンを持ったまま規則正しい寝息を繰り返している。
「……明日久しぶりの休みだから、気が緩んだんですかね?」
 燈治は割と忙しい毎日を送っている。大学での課題やドッグタグのバイト。家に帰ったら、食事作りをはじめとする家事もしている。こんなに近くにいるのに目を覚まさないのだからよほど疲れたんだろう。
 二人で住んでるのだし、負担も二人で分けよう。
 そう七代が手伝いを申し出ても、任されるのは洗濯物を取り込んだり、部屋の掃除をしたり、と無難なものばかり。そして台所には絶対立たせてもらえない。
「おれの料理の腕前が下手なことは認めますけど、だからって全部しようとするから、疲れが貯まりやすくなるんですよ、もう」
 不満を呟き、七代は寝てしまった燈治の頬を指先で突く。
 燈治は相変わらず眠りの中から動こうとしない。
 とりあえず七代は燈治の手からリモコンを細心の注意を払って抜き取り、テレビの電源を落とした。一旦部屋を出て、寝室から毛布を持ってくる。いくら燈治でも何もかけないままでは調子を崩してしまう。
 こっちがしてもらっているように、抱き上げて寝室までつれてゆければ良いのだけれど。悲しいかな燈治を抱える筋力を、七代は持ち合わせていなかった。
 よいしょ、と七代は燈治に毛布を優しく掛けた。そして今度は向かい合うように七代は腰を下ろす。
 最近はベッドの上で見上げるばかりだった顔を、見下ろした。手を伸ばし、まるで子供にするように眠る燈治の頭を撫でる。
 七代の隣に立つと宣言し、そのための努力を怠らない燈治。その思いを一心に受け、七代は愛されてるなと実感する。だから、こうして疲れて眠る姿すら、愛しく思えて。
「…………だいすき、ですよ」
 口を微かに動かし声にならない言葉を紡いだ七代は、そっと前かがみになって、燈治の頬へ唇を落とした。
 軽く触れただけの唇は直ぐに離れ、七代の頬には朱が走る。風呂に入ったばかりなのに、余計熱くなってしまった。今燈治の目が覚めてしまったら、恥ずかしさに部屋の端でうずくまってしまいそうだ。
 顔を見られないためにも、七代はそそくさと燈治と一緒の毛布に潜り込む。体温が高いから、湯たんぽ代わりになるだろう。
 燈治に身を寄せ、七代はそっと瞼を閉じた。ラグを敷いただけの床は堅い。けど、燈治の体温が七代の思考をゆっくり眠りの波へ誘っていった。

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壇主小話


※エンディング後 同棲設定


 妙に自信たっぷりだったから、つい申し出に頷いたのがそもそもの間違いだった。
 焦げくさい臭いに、燈治は嫌な予感しかせず、台所に駆け込む。
 一歩キッチンに踏み込み、思い切り顔をしかめる。火災報知器が作動するほどの煙が、そこに充満していた。加えてうるさい警告音に、これはただ事じゃないと一目でわかる。
「馬鹿、お前何やってんだ!」
「だ、だ、壇……!!」
 もうもうと黒い煙を上げるフライパンの前で、涙目になった七代が振り向いた。青ざめた表情。起こった事態に頭が回らないらしく、ガスはついたままだ。
「ちょっとそこ退け!」
 燈治はガスコンロの前で慌てる七代を横に押し退け、火を止めた。続けて窓という窓を開け、煙を外へ逃がす。うるさく鳴り続ける火災報知器を止め、十分な煙を逃がしたところで、これで大丈夫だろうと確認した。
「……壇」
 ばたばたと燈治が動き回っている間、台所の隅でじっとしていた七代が、恐る恐る近づいた。一歩間違えれば火事になる状況に、さすがの七代も肩を落としてうなだれ「ごめんなさい」と燈治に謝る。
「……もういいって。わざとじゃねえんだしよ」
 あまりの落ち込みように、燈治も毒気が抜けた。俯いた七代の頭にぽんと手を置いて、慰めるように撫でる。
「だけど、今度はこうなる前に言えよ? それだったら駄目にならなくなるかもしんねえし」
 そういいながら、燈治は煙の元になったフライパンを見やった。真っ黒に焦げたフレンチトースト--だったものに、どこまで焼こうとしてたんだろう、と内心思う。
「うう。最近壇のフレンチトーストがだいぶ美味しいから、おれも作れるかと思ったのに……」
 頭を撫でられ落ち込んだ気持ちが浮上したのか、幾分覇気が戻った声で七代が悔しがった。
「そりゃ俺は、練習してるしマスターにいろいろ教わってるからな。全く料理しないお前と比べられても困る」
「でも、壇ですよ?」と七代は顔を上げて、ぎゅっと握り拳を作った。
「今まで料理のりの字も知らなかった壇が……、まさかフレンチトーストとか、ナポリタンとか作れるようになっただなんて……、おれでも作れると思ったっていいじゃないですか」
「そこで開きなおんな」
 さっきまでのしおらしさが嘘のようだ。燈治は呆れて頭に置いていた手を離し、そのまま七代の額を指で弾いた。
「あいたっ」と弾かれて軽く仰け反った七代が、赤くなった額を手のひらで押さえた。
「うう、ひどい。暴力反対」
「ひどいって思うんなら、お前も練習してみろよ。俺より美味しく作れたらちゃんと認めてやる」
「ううう……」
 うなる七代の頭をぽんと叩き「おら、まだやることは残ってんだからな」と燈治はガスコンロの方を顎でしゃくった。黒こげのフレンチトーストが鎮座しているフライパンは、洗うにも一苦労しそうな一品になり果てていた。
「これ洗わねーと、今日の夕食千馗の嫌いなものばっかりにするからな」
「ええっ」
「じゃなけりゃ、しばらく好物はお預けか--どっちにするんだ?」
「どっちも同じ。同じですから!」
 反論しながら、七代は大慌てでガスコンロへ戻る。そしてフライパンを手にしかけ--「あっち!」と悲鳴を上げた。見てて、何となく音を聞かせるとくねくね踊る玩具の花を思わせた。
「あー……ったく、あいつは……」
 いつでも騒がしい奴だ。転校してから、こうして一緒に暮らすようになって、ずいぶん静かな生活とはかけ離れた時間を過ごしている。恐らく、ずっと賑やかなままなんだろうと燈治は感じていた。
 望むところだ。俺は、千馗といられることが一番の望みなのだから。いつまでも、この騒がしさとつきあってやろう。
「だから、落ちつけって!」
 まずはこの状況を収めないと。フライパンが熱いと騒ぐ七代を落ち着かせる為、燈治は七代の元へ足を踏み出した。

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壇主小話




「――京都に行きたいです」
 放課後。屋上で何をするわけでもなくぼんやりしている燈治の耳に、千馗の呟きが耳に入った。欄干に頬杖をついて夕焼けの空を見上げる横顔に「京都?」と燈治は尋ね返す。
 七代は「はい」と空に視線を投げたままぼおっとして頷いた。
「秋の京都ってすごいんですよ。何て言うか……、紅葉がうわーって広がってて」
 欄干から手を離し、七代は大きく両腕を広げて「こんな風に一面にあっかいのが広がってるんです」と自分の見たものを燈治に伝えようとしてくれる。だが抽象的すぎてさっぱり伝わらなかった。
「全然わかんねぇよ。もうちょっと具体的なもんはねぇのか? ほら、場所とかよ」
「いやー、生憎忘れちゃったんですよねえ。京都って紅葉も綺麗ですけど、食べるものもおいしいですし。駄菓子とかさりげなーく地域限定的なものもありますし」
「お前な……」
 紅葉より食い気か。わかっていたが燈治は呆れてしまった。いや、それでも今紅葉の方に思いを馳せてた分、まだマシか。
「前お世話になった人にくっついて行って……ずっと後ろをちょろちょろしてたから、場所とかよくわからなかったんですよね」
 当時を思い出したのか、七代が小さく笑う。眼に昔を懐かしむ郷愁の色がふと浮かんでいた。
「ただ……山を登ったときの紅葉とそこから見える景色は今でもすごく覚えています。こんなに綺麗な景色まだまだあるんだなって。本当は絵にしたかったけど、おれその時は絵が下手くそだったし、時間もなかったから」
「……」
「あ、でも絵がまだまだなのは今も変わらないですけどね」
「……また、行けばいいだろ」
 七代から視線を反らし、燈治はぶっきらぼうに言った。頬に血が集まって、熱くなる。
「俺が、連れてってやっから」
「……え?」
 ぽかんとして七代は燈治を見上げた。燈治はまっすぐ前を見たまま、半分自棄になって言葉を続ける。
「約束、しただろ。お前をいろんな場所に連れてってやるって。それはここ--新宿だけじゃねえ。それ以外でもお前が望むなら、俺が……どこへだって連れてってやる」
「壇……」
 紡がれる言葉から伝わる率直な燈治の感情に、七代の顔もつられて赤くなった。そして素早く周囲を見回し、そっと燈治との距離を詰める。
 ゆっくり伸ばされた手が燈治の袖を引き、肩口に額を押しつけた。
「それが実現する前に、ちゃんと思い出しますから。だからちゃんと連れてってくださいね」
「……ったりまえだろ」
 当然のことを言うな、と返す照れ隠しのせいで不機嫌そうに聞こえる声に、そうですね、と七代は笑った。

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深夜一時三十三分 壇主


※エンディング後同棲設定です


 深夜。
 台所に立っていた燈治は、戸棚からインスタントコーヒーを取り出した。流し台に置いていたマグカップにスプーンでそれを掬い入れる。砂糖とミルクは後で七代が自分の好みに合わせて加えるだろう。
 燈治は視線を風呂場に向けた。聞こえる水音は、七代が使っているシャワーの音。どうやらまだ後始末をしているらしい。絶えず聞こえてくる音にのぼせなきゃいいけどな、と燈治は心配する。
 セックスの後、燈治は一度だけ風呂を共にしたことがあった。身体がだるいと頻りに嘆く七代が少しでも楽になれば、と後始末を手伝ったが、それきり事後の入浴に誘われなくなった。
 ――燈治さんの場合、後始末って言うよりもっと散らかしているようなもんですよ。
 その時七代に言われたことを思いだし、燈治は渋い顔をする。
 最初から、しようとは思ってなかった。ただ身体の内側に残る性交の残滓を取り除いてやりたい。出してしまったのは自分なのだと、思っていたが。
 掻き出すときの指の動きや、中に進入する湯の感触に反応する七代は艶めいていて。白く濁った水と共に、なけなしだった燈治の理性もあっけなく流された。
 七代からすれば、セックスの後の風呂を拒否するのは当然の結果なんだろう。だが、長く風呂にこもっていられると、それはそれで逆上せたんじゃないかと心配になる。 
 ポットの湯が沸いたら、様子を見に行くか。湯を沸かすポットを見つめる燈治の横で不意に「燈治さん?」と声がする。
 タオル一枚の七代が、燈治の横に立っていた。もう一枚のタオルを、濡れた頭に被せ「どうしたんですか、ぼおっとして」と言った。
「…………お前な」
 首筋や胸、腹部につけられた鬱血の痕を惜しげもなく晒す七代に、燈治はがっくりと肩を落とした。
 燈治は首を傾げる七代の額を力の加減もせずに弾く。頭が仰け反り、七代は「いきなりなにするんですか」と弾かれた部分が赤くなった額を押さえて抗議する。
「いいからとっとと着替えてこい!」
「燈治さんのイジメっこー」
 クローゼットがある隣の寝室をびっと指さす燈治に、七代は文句を垂れながら扉を開けて引っ込んでいった。
 アイツの基準がわからない。溜め息を吐いて燈治は思う。情事やその後の風呂ではとにかく恥ずかしがっていたのに、今みたいな風呂上がりでは平気で人に裸を晒す。
 一度、腹を据えて話し合ってみる必要があるかもしれない。そう考えながら、燈治は仕事を終えたポットを傾け、マグカップに湯を注いだ。
 インスタントコーヒーの香りが台所に漂う。
「あ、コーヒー」
 Tシャツに短パンの出で立ちで戻ってきた七代は、鼻をひくひくさせて燈治の隣に立った。
「今日は?」
「風呂上がりはやっぱりコーヒー牛乳ですよね」
 笑顔で答えた七代に「へーへー」と燈治は冷蔵庫から牛乳を出した。牛乳で割るには注いだ湯の量が多く、燈治は仕方なしにもう一つマグカップを出して、こぼさないよう半分に分ける。
 できあがったコーヒー牛乳を差しだそうとして、ようやく燈治は七代の着ているTシャツの柄に目がいった。
「……おい」
「はい?」
「俺の記憶が確かなら、それは俺のTシャツじゃないか?」
「燈治さんのTシャツですよ?」
 あっさり七代は認める。
「だって、探すの面倒だから、すぐそこにあった燈治さんのTシャツをお借りしました!」
「汗くせえぞ、それ」
 七代が拝借したのは、燈治が今日一日着ていて性交の時脱ぎ捨てたシャツだ。当然綺麗ではない。しかし七代は首を振って「燈治さんならいいんです!」となぜか自慢たっぷりに胸を反らす。
「変態くさいな、それ。……ま、お前がいいならいいけどな」
 ほらよ、と燈治は二つあるマグカップの片割れを七代に渡した。もう片方を自分の右手に持って、電気ポットのコンセントを抜く。
「で、どこで飲むんだ?」
「ご飯食べる部屋でまったりしてればいいんじゃないですか。どうせベッドは使えないんですし」
「……後で布団敷くか」
 明日は洗濯が大変だな、と燈治は思いながら寝室とはまた別の部屋に続く扉を開けた。
 中身をこぼさないようマグカップを両手で持っていた七代が燈治を振り返って言った。
「この時間、映画やってるんですけど、見ます?」
「その前に天気予報を見てからな」と燈治が答え、部屋の扉を閉めた。

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