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二次創作(小説のみ)やオフラインの情報を置いてます。

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 長時間鳴らされた携帯電話の着信音に起こされた日向は、堂島に見送られて家を出た。
 元々仲間内で集まるのより数時間早い空はまだ夜の帳が落ち切ったまま。寒さで身が切れそうな空気は、暗闇へ星の煌めきを鮮やかにちりばめている。
 は、と白い息を零し夜空を見上げていた日向は、歩き出した。陽介が待っている場所へ。

 鮫川河川敷に建てられた東屋で、陽介は日向を待っていた。コートにマフラーを巻いた格好で、耳にはいつも首にかけているヘッドフォンを当てている。
 日向はゆっくり後ろから陽介に近づいた。ヘッドフォンで音楽を聴いているのか、すぐ後ろに立っても気づかない。
 リズムを取るように頭を軽く上下させる頭をじっと見て、日向は手を伸ばした。手袋を着けていない指先で、赤くなった頬に触れる。
「――っ!?」
 指先の冷たさに、びくりと陽介の肩が跳ね上がった。ヘッドフォンを剥ぎ取って振り返ったその眼が、手を引いた日向を見て、大きく開かれる。
「おっま……、ビックリしただろ!」
「ごめんごめん」
 陽介を驚かせた手をひらひらと揺らめかせ、薄く笑いながら日向は謝る。そして睨んでくる視線を受け流しながら隣に座った。
「いつからいたの? 結構待ってた?」
「んー、30分ぐらいかな」
 答えて陽介がコートのポケットに手を入れる。
「クマがさ、初めての年越しでやけに興奮してさ。なかなか寝ないから、ちょっと焦った。せっかく二人で会うのに、起きられてたら外行けねーし」
 それでもはしゃぎすぎたお陰か、クマが力尽きて眠ったので、その隙に家を出たと、陽介が疲れたように言った。
「起きたらまた大騒ぎしそうだ」
「たぶんな」
 その状況を想像した陽介が、深い溜め息を吐いた。だがすぐ気を取り直し、日向に笑いかける。
「まぁでも、お前と会うほうが大事だし」
 へへっ、と陽介はポケットから出した手で、鼻を擦った。寒さのせいか、鼻先は赤くなっている。
「うん」
 日向が小さく笑う。そっと身体を移動させて、陽介に寄り添った。肩口に頭を凭れ「俺も早く会いたかったよ」と囁いた。
「そっか」と陽介も笑う。嬉しそうに声を弾ませ、「良かった」と呟いた。
「……それでこれからどうするんだ?」
 肩に乗せた頭を擡げ、日向は陽介に尋ねた。まだ仲間との待ち合わせには、まだ結構な時間がある。なにもせず一緒にいるのも構わないが、この寒空では風邪をひいてしまいそうだ。
 んー、と顎に指を添え陽介は考え、そして言った。
「まぁ、こうして二人きりなのも久しぶりだし、したいことしたいけど」
「言うと思ったよ」
「人の言葉は最後まで聞けよ」
 心外だと言いたげに、陽介は日向の言葉を遮る。わざとらしく咳ばらいし「神社まで行くか。途中であったかいもん買って」と提案した。
「どうせ待ち合わせもそこだし。のんびりすんのも良くない?」
「構わないけど」
 意外そうに見る日向に、「信用ないね、俺」と陽介は首筋をかく。
「言っただろ。会いたかったって。俺だって、それだけで十分な時があんの。この微妙な心境わかってよ」
 陽介は腰を上げ、座ったままの日向に向き直る。
「行こう」
 そして手を差し出し、にっこり笑った。
 いつもだったら、往来や仲間の眼がある場所で、手を繋いだりはしない。期待が篭った眼に、日向は口許を緩め、その手を掴んだ。
 夜空で待っていた手は冷たい。けど、繋いで歩くうちに温まるだろう。
 歩き出した陽介に手を引かれ、日向は立ち上がる。そして進み出した恋人の背に「陽介」と声を掛けた。
 肩越しに振り返る陽介に言う。
「あけましておめでとう」

 これからもよろしく。

 その言葉に陽介も「こっちこそよろしくな」と笑って応えた。

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ゆく年



 大晦日の昼過ぎ。日向は、ジュネスから家路へと歩く。今年も今日で終わり。全快した堂島と菜々子の為に両手にぶら下げたビニル袋には、食材が押し込めるように詰められていた。
「はー、今日で今年も終わりかぁ」
 寒空を見上げていた陽介が感慨深く呟き、首に巻いたマフラーに顔を埋めた。左手には、日向と同じくいっぱいになったビニル袋。いくら日向でも三つ一遍に持てないので、堂島家まで持って行く手伝いを買って出ている。
 食材でいっぱいのビニル袋は重く、取っ手が指に食い込むが陽介には苦にもならない。右隣りにいる日向の存在を確かめながら、一緒にいられる幸福を噛み締める。今年はこれでおしまいだと思うと、尚更。
「うん」
「今年はすごかったよな。たぶん俺、今までで一番密度が濃い年だと言えるかも」
「それだったら、俺だってそうだよ」
 ははっ、と日向が笑った。
「俺だけじゃない。里中や天城や……。みんなそうじゃないか?」
「そりゃ言えてる」
 陽介も笑い、大きく息を吸った。そして吐き出された息が白く濁り、すぐ冬の空気に流されていく。
 会話が途切れ、歩く音だけがする。それを聞きながら、陽介はちらちら横目で日向の様子を窺った。
「あのさ、正月いつあたり暇になんの?」
 思い切って、陽介はここ最近言いたかったことを、口にした。緊張で心臓の打つ動きが早くなっていく。
 日向がきょとんとして、陽介を見た。そして「ん?」と首を傾げて聞き返す。
「だからっ、年明けたらいつ会えんのかって、聞いてんの」
「明日会える」
「それはみんなでだろ」
 元旦は、特捜メンバーで初日の出を見た後、辰姫神社へ初詣に繰り出すことになっている。日向はそのことを言ってるんだろう。
 微妙に気持ちがすれ違っている会話に、陽介は視線を爪先へと落として口を尖らせる。
「俺は二人っきりで会う時のことを言ったつもりだったんだけどさ」
 納得がいった日向が「ああ」と頷いた。ビニル袋を持ち直し、宙を仰いで考え込む。
「元旦はなるべく家にいたいから、それ以降かな」
「曖昧だな、それ」
 なるべく明確な答えが欲しかった陽介は、不満そうに唸った。
「拗ねない」
 日向が微かに苦笑して、陽介を窘める。
「……だったら、初詣の待ち合わせ」
「ん?」
「待ち合わせ。みんなより早くする? そうしたらその分二人でいられる」
 陽介が眼を丸くして、日向をじっと見た。笑みを深くし、日向は言葉を続ける。
「それにその間で今度はいつ会うか決めたらいいんじゃないか。陽介だって、新年はジュネスで忙しいんだろう? どうせなら、確実に会えるよう決めておかないと」
「橿宮」
「その代わり、電話入れてほしい。たぶん寝てるだろうし」
「……お前、そこら辺はこれからも変わらないんだろうなぁ」
 呆れて肩を竦め、陽介は笑った。近くなってきた堂島家の屋根を見つけ、気合いを込めて呟く。
「じゃあ、時間が来たらお前が起きるまで携帯鳴らしてやっから」
「その調子で頼む」
 日向は眼を細め、意気込む陽介に気づかれないよう頬を緩める。そして、ぶら下げたビニル袋を見下ろし「がんばってやること終わらせないとな」と小さく呟いた。

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マフラー




 日増しに寒くなっていく朝に冬の到来を感じながら、陽介は家を出た。吐いた息が一瞬白く煙り、すぐ消える。この分だともうそろそろ、手袋とかマフラーとか暖かいものが必要になりそうだと思いながら、通学路を歩く。
 歩くうちに指先が冷えてきた手をズボンのポケットに入れて歩いていると、後ろから「陽介」と誰かが呼んだ。振り向く間もなく、日向が鞄片手に走って陽介に近づいてくる。
「おはよう」
「おはよーさん。わ、お前なんだ? 暖かそうなもの着けちゃって!」
 日向に挨拶を返しながら、陽介は彼が巻いているマフラーを見た。淡い青色のもので、しっかりと日向の剥き出しになっている首筋を守っている。
「これか?」
 日向は巻いているマフラーの端を持って見せた。
「今日外出たら、やたらと寒くて。一回家のなかに戻って巻いたんだ」
 そして、はぁ、と白い息を吐き、空を見上げる。
「稲羽って、結構寒いんだな冬」
「もうちょっとしたら、もっと寒くなるぜ。俺も去年びっくりしたし」
 一晩経って、カーテン開けたら雪一色でした、なんて体験をした時には、驚いて開けたカーテンを掴んだまま呆然としたものだった。そうしみじみと語る陽介に、日向は小さく笑う。
「笑い事じゃねーから。その後雪掻きで死ぬかと思ったんだから」
 笑われてむっと口を尖らせた陽介は、日向が巻いているマフラーを改めて見つめる。
「今年も雪降ること考えたら、マフラー欲しいかも。な、お前のどこで売ってるんだ? 俺もそういうの欲しい」
 興味津々で尋ねる陽介に、「これか?」と日向はマフラーを指差して答えた。
「これは完二の手作り」
「……まぁ、ありそうだと思ってたけど」
 しかしどこまで器用なんだか、と陽介は思う。一見してどこかで買ったと言われたら、信じてしまうそうな出来映えだ。
 じっとマフラーを凝視する陽介に「陽介も頼んでみたら?」と日向が言った。
「これ、すごくあったかくていいぞ」
「うーん……」
 陽介はマフラーの端を摘んで弄びながら考える。
「いいかもしんねぇけど、俺が頼んで素直に聞いてくれるかな」
 明らかに完二は日向と違って、陽介を先輩として敬っていない節がある。だが日向は「大丈夫」とすぐに頷いた。
「俺も一緒に頼むから」
「……なら大丈夫、か?」
「じゃあ今日にでも頼んでみよう」
「そだな」
 日向が一緒なら、まず平気だろう。なんとなく日向とお揃いになれるんじゃないかと、頬が緩む陽介の横で「あ、でも材料代はこっち持ちだから。あと何色にしとくか決めとけよ」と日向が付け加える。
「陽介だったらやっぱり明るい色かな。赤とか?」
「赤は天城の色って感じがするから他のがよくね?」
「じゃあ橙とか……」
「じっさい見てみねーと分かんないかもな」
 すっかり完二に作ってもらうことが決まっているように話しながら、二人は歩いていく。その脳内には断られる可能性はもうないようだった。

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どうして




 教室で、いきなり日向が陽介に尋ねた。
「なぁ、どうして陽介は豆腐が嫌いなんだ?」
「な、何だよいきなり」
 突然振り向いた日向に尋ねられ、陽介はつい驚いて手からペンを落とす。突拍子な行動に、うまく反応出来なかった。
「ふと気になって」
 日向はそう言って、黙ったまま陽介をじっと見つめる。暗に答えを催促してると、陽介はすぐに分かった。
 あーえー、と曖昧に言葉を濁しながら、陽介は腕を組んで考える。
「……なんか口の中でぼそぼそっていうか。食べた時の感触とかさ。あと微妙な味具合……とか?」
「何で疑問形?」
「だって自分でもどう言えばいいかわっかんねえし」
 いきなり聞かれたので、うまい表現のしようがなかった。
 陽介の答えを聞いた日向は、その内容を吟味するように考えているのか、顎を引いて俯きがちになる。
 そして陽介を見て言った。
「よくわかった。その言葉そのままりせに言ったら、すごく怒るだろうってことが」
「う……」
 陽介の脳裏にはっきり、りせが頬を膨らませ怒る姿が浮かぶ。祖母の作る豆腐をこよなく愛しているりせからすれば、陽介の豆腐に対する言葉は、侮辱以外の何物でもないだろう。それは誘拐されるかもと、忠告する時つい完二が口を滑らせた時、覗いた顔からもすぐに分かった。ほんのちょっとしか見えなかったけど、あの睨みようは絶対怒ってた。
「りせが言うには豆腐はいろんな味に馴染むからいいって……」
「そう言われても……」
 食べにくいのは陽介の中で変わらない。
 第一何故日向はこんなことを聞くんだろう。もしかして、俺の好き嫌いをなくそうとしているつもりなのか。もしそうだったら、どこまでオカンなんだろう、と陽介は薄ら笑ってしまう。
 いやでも、ありそうだ。
 そう考えが至った陽介は、少しの希望を混ぜて聞いた。
「……橿宮が料理してくれたら、食べれる……かも」
「それは弁当が食べたい口実だろ」
 すかさず言い返され、陽介は言葉につまる。
「う……」
「まぁ、全品豆腐尽くしでも良かったら、明日にでも作るけど」
 どうする? と首を傾げて尋ねられ、究極の選択を迫られているような気分になった。断ったら、しばらく弁当を作ってくれなさそうな予感がする。
「ちょ、ちょっと待って。考えっから」
 陽介はそう言い、深く考え込む。その姿に、日向は「……そこまで悩む?」と呆れたように肩を竦めた。

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疑惑

長瀬×一条風味も含まれてます




 もうそろそろ部活が終る頃だろう。
校内で適当に時間を潰していた陽介は、腕時計で時刻を確認し、サッカー部の部室に向った。
 今日はこの後、日向と一緒にジュネスで買い出しに付き合う。お一人様一つの数量限定セール品を少しでも多く買うために使われているような気もするが、あえてそこには瞼を伏せておく。陽介としては、日向と居られることのほうが重要で、シチュエーションに文句をつける程贅沢は望まない。そうでなくても、二人きりになる時があまりないのだから。
「――あれ、花村?」
 部室が並ぶプレハブ小屋の壁に凭れていた一条が顔を上げ、見つけた花村に軽く手を振った。
「ツレのお迎え? 相変わらず仲良いね」
「うっせ。お前だって同じようなもんだろ」
 茶化してくる一条もまた、長瀬を待っているのを花村は知っている。
 しかし一条は「分かってないな」とゆるく首を振った。
「オレはさっきまで部活あったし。帰宅部のお前のがより長く待ってたことになるよな」
 そう言われたら返す言葉もない。
 得意そうに笑う一条を睨み、サッカー部の部室に向う。
「あ、ちょっと待てって!」
 どうせ行く場所同じだろ、と追いかける一条を無視し、引き戸に手を掛けた陽介は、中から聞こえてきた声に眉を潜めた。
「……ちょっ、長瀬……」
 うわずったような日向の声に、思わず陽介は固まった。後ろで追いついた一条がきょとんと陽介を呼ぶ。
「どこ、触って……っ!」
「いいだろ別に。減るもんじゃないし」
 日向に続いて聞こえてくる声は、長瀬のものだ。今度は一条も聞こえたらしい。眼を剥いて口をぱくつかせていた。
「……な、なにやってんのかな、アイツら」
 思わず腕を掴んでくる一条に「俺に聞くなよ」と陽介は投げやりに答える。そんなもん、こっちが知りたい。
 開けようかどうか、引き戸に伸ばしていた手が宙を彷徨う。開けたら密会の途中でした、なんて、自分にとっても――恐らく一条にとっても心臓に悪すぎる。かと言って、このままにしておけない。
「――長瀬っ!」
 逡巡している陽介を押し退け、一条が焦ったように引き戸を勢いよく開けた。
 暗い部室内に、傾きかけた太陽の光が差し込む。
「陽介?」
「お、一条」
 青ざめた陽介と切羽詰まったような一条を迎えたのは、いつもと代わり映えない日向と長瀬の姿。どちらもきっちり着替え終っていて、陽介たちが危惧していたことなどは微塵も感じさせない。
「どうしたんだお前ら」
 唖然としている様子に、長瀬が「悪いものでも食ったか?」と眉を寄せて尋ねる。
「ばっ、違うって!」
 かっと顔を赤くして、一条がずんずん部室に入り込み長瀬に詰め寄る。
「さっき変な声が聞こえてびっくりしたんだよ!」
「変な?」
 長瀬は首を傾げて考え込み、ああ、と思い至ったように頷いた。
「変な、ってこのことか?」
 そう言うなり、長瀬は横にいる日向に突然手を伸ばす。だが脇腹を狙ったそれは、すんでの所で交わされ空振りに終わった。
「避けたな」
「避けるだろう」
 言い返し、ロッカーから取り出した鞄を手に、日向は呆然としたままの陽介に近付く。
「誰が好き好んでくすぐられるか」
 帰ろう、と日向が陽介の腕を引いて歩き出す。足がもつれかけながら、陽介は何とか体勢を直した。
「また明日なー」
 後ろから聞こえる長瀬の声に振り向く。
 呑気に手を振る長瀬の横で、一条が喚いていたが、陽介には何を言っているのか分からなかった。


「……で、何やってたんだ?」
 日向のほうに顔を戻し、陽介は聞いた。日向と長瀬のやり取りを聞いた限りでは、陽介の恐れることはないだろうと分かっても、気になってしまう。
「部活が終って着替えてたら、長瀬が筋肉ついてるなって」
 前を向いたまま、日向が答えた。
「で、俺がそうか、って返したらいきなり脇腹を触られて」
 くすぐったくなり、日向はつい変な声が出してしまったらしい。どうやら陽介が聞いたのはその時の声だったようだ。
 やっぱりさっきの不安は杞憂だったようだ。陽介は胸を撫で下ろす。
「にしても、お前そんなに脇腹弱かった?」
「不意打ちだったからな。びっくりはした」
「じゃあ俺も今度不意打ちしようかな」
 悪戯心が沸いて言った陽介を振り向き「いいよ」と日向は薄く笑った。
「そうしたら、すかさずやり返すから」
 その言葉と笑みに壮絶なものを感じ取った陽介は「……怖ぇよ」と首を竦め、日向から逃げるように上体を後ろへ反らした。

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